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 夜の闇を切り裂いてC-130が厚木基地の滑走路に流れるように着地していく。
 韓国の宣戦布告に伴い、日本政府は極秘裏に米軍のKC-130空中給油機を購入、自衛隊に配備することを決定していたのだ。本来、航空自衛隊はボーイング767を改造した空中給油機(KC-767)を導入することを決定していたのであるが、配備は2007年2月からとなるため、今回の韓国の宣戦布告への対応に間に合わせるため、急遽、その予算をKC-130の購入に割り当てることとなったのだ。C-130型輸送機は自衛隊でも導入しているため、慣れた機体を応用することが出来ることから、今回の配備となったのである。
 同時に米軍の所有している空対地ミサイルを大量に購入して緊急事態への対応を進めていた。
 北朝鮮政権が崩壊したことで今は大混乱に陥ってはいても、韓国は流石に世界でも有数の経済国である。その軍事力を侮るわけには行かなかった。
 シミュレーションの上では自衛隊が圧倒的に有利であるとされているのだが、あくまでもそれは数字上の優劣である。
 特に憲法の制約は大きかった。
 日本は憲法で国際間の紛争を解決するために武力は行使しない、とされている。しかし、国家としての自衛権まで放棄したわけではない、というのが憲法の解釈であり、結果として自衛隊が存在することの理由にもなっている。
 その憲法は草案がGHQによって行われ、日本が対外侵略戦争を行えないようにする、という目的があったのだが、今は逆に日本が韓国から宣戦布告を受けた状態である。誰もこのような状況を具体的に議論していなかったため、国会でも霞ヶ関でも針の巣をつついたような大騒ぎになっていたのだ。この期に及んでも社民党や共産党の議員は自衛隊による戦闘行為への反対を訴えていたのだが、逆に具体的かつ現実的な対案を求められて沈黙していた。
 そして国家的な危機である、との認識が広まったことから急速に国民の間に憲法改正への意識が高まっていったのである。
 加えて、朝鮮総連の施設から大量の武器が発見されたことが報道され、一気に憲法改正と再武装へと議論が進んでいた。もちろん、その朝鮮総連の施設に関する情報のリークは朴を始めとするプロメテウスに協力する者達によって行われていた。既に北朝鮮が崩壊した以上、親北派への工作など行う必要もない。
 そして長年敵対してきた民潭への対応はそれこそ、日常の生活の一部にまでなっている。
 既に民潭の中枢部には相当数の北朝鮮の人間が送り込まれ、無視できない影響力を行使できないようになっているのだ。
 そうした影響力を駆使して、朴たちは韓国の情報を日本側に流し続けていた。
 もう既に中国は完全に混乱の最中に叩き込まれ、各地の軍閥が覇権を争っての戦国時代に突入している。そうした中ではもう、日本の外務省は既にパイプを失い、実質的に機能不全状態に陥っていたのだ。
 結果として役に立たなくなった外務省の代わりに世界各国の軍部とパイプを持つ自衛隊や外務警察、商社などの民間ネットワークを中心とした新たな外交特別チームを急遽立ち上げて、激変し始めた世界情勢に対応するための体勢を整えなくてはならなかったのだが、それはある意味でやむをえない選択だった。
 中国という国が瓦解して内乱状態に陥り、今また北朝鮮という隣国も崩壊してしまった状態で韓国との戦争状態に突入した、という現実は流石に平和ボケした日本人を大きく揺さぶっていた。その結果、いとも簡単に憲法の改正決議案が通り、そして国民も第九条を改正することを含む憲法改正案を国民投票の過半数の賛成を得て成立させていたのである。
 それには日本の国内にも多数の怪物が現れて人々の生活を脅かし始めた、という現実的な問題があった。
 既に全国にはゴブリンが出没し、各地で被害の報告が出ている。
 そうした中で人々は自警団を作って緊急時には自らの手で自分達を護るように行動し始めていた。
 そしてついに、韓国海軍の駆逐艦が海上自衛隊の護衛艦に向かって砲撃を行う、という事件が発生し、これをきっかけとして戦闘の火蓋が切って落とされたのである。
 北朝鮮による攻撃の心配をしなくてもよくなった海上自衛隊はそのまま、振り分けることの出来る最大戦力を対馬海峡に向けていた。
 
 不気味な静寂の中で、その影はじっと獲物を待ち構えていた。
 海上自衛隊に属する最新鋭のおやしお型潜水艦『うずしお改』が、韓国海軍の潜水艦の動向をじっと見つめていた。このうずしお改は従来のディーゼル駆動エンジンでありながら魔法を用いた補助システムを導入している。
 ディーゼルエンジンの場合、原子力潜水艦と違って発電をするために酸素を補給する必要がある。これがディーゼル型潜水艦の最大の弱点となっているのだ。酸素を補給するためには必ず、海面近くに浮上してシュノーケルを海上にまで伸ばし、そしてディーセル機関を動かしてバッテリーに電気を充電してやるという動きになるため、潜水艦哨戒機に発見される確立が非常に高くなってしまうのだ。
 だが、このおやしお改に導入された魔法装置は海水から酸素を取り出してディーセル機関への酸素補給を行うことができるのと同時に、艦内の空気を浄化して常に新鮮な酸素を補充することができる。その為、おやしお改はディーセル型潜水艦の限界を超えて、燃料が尽きるまで非常に長い間、潜行したまま行動が可能になっているのだ。
 他にも魔法発電システムを導入して、推進機関全体を動かすほどではないにしても直接魔法による電力供給を行うことで潜行活動能力の向上を図っていた。
 結果としてディーゼル潜水艦の欠点である酸素補給の問題を解決したことで、逆に近海での非常に長時間の潜行活動能力を得て、逆に原子力潜水艦にある騒音の問題を伴わない静かな待ち伏せを行えるようになったのである。
 政治的なハードルを越えた段階で、自衛隊は既にその真の能力を解き放たれていた。
 後に「一日戦争」と呼ばれる対馬海戦で、韓国側のシミュレーションよりも若干短い二時間四十五分ほどで、そして韓国海軍第一艦隊を完膚なきまでに叩きのめしていた。対して海上自衛隊は2隻の護衛艦が損傷を受けたものの、ほぼ無傷のままで戦闘を終結させていたのだ。
 日本の海上自衛隊側は北朝鮮と中国の軍事的脅威を排除できたため、イージス艦をフルに活用できたのもこの対馬海戦を圧倒的有利に戦うことが出来た理由の一つである。
 その時、海上自衛隊の機動艦隊の一つ、第三護衛隊群を率いる片桐健太郎は微かな緊張と興奮を覚えていた。
 海上自衛隊の誇るイージス艦「みょうこう」の統合司令室の中で、彼は日本が六十年ぶりに経験する戦争を任された事に、緊張と共に熱い名誉の気持ちを抱いていた。もちろん、不安が無いわけではない。既に日本は実際の戦争から遠ざかって久しい。
 訓練を怠っていたことは一度としてないのだが、それでも実際の戦闘でどれだけ訓練の成果を発揮できるかは未だに自信を持てなかった。
「なあに、心配するな。訓練どおりにきちんと対応をすればいい」
 そう言って初めての実戦に不安げな表情を向ける、まだ子供のようなあどけなさの残った若い通信士に笑いかける自分が可笑しかった。
 自分こそ不安に押しつぶされそうなのに。
 だが、もう犀は投げられた。
 轟音を響かせて新型支援戦闘機のJVF-24、通称ワイヴァーン・ゼロが『おおすみ』から浮上していく。この日本が極秘裏に独自開発した日の丸戦闘機は、あらゆる意味で日本の国防族の悲願が形となって現れたものだった。
 XF5-1系エンジンをベースにした日本独自に開発された最新の国産超音速ジェットエンジンはVTOL(垂直離着陸)能力を備えながらも最高速度はマッハ2.6という速度を叩き出すほど高性能な戦闘機を生み出すことを可能にしていた。しかも、単発エンジンながらその軽量の機体であることを生かして、超音速巡航、いわゆるスーパークルーズを可能にしている。これには「アメリカの横槍」とも言われ「レイプで生まれた子」とさえも評されるF-2支援戦闘機の日米共同開発で手に入れた第4世代戦闘機の基本技術が大きく生かされていた。これは当時、超音速制御を行うアビオニクスや制御技術など、エンジン以外のほぼ全ての技術を独自開発で生み出した、という点で避けられない妥協だったのかもしれない。
 特に2000年から始まった、日本の防衛省技術研究本部(技本)が三菱重工業を主契約企業として開発を行っている先進技術実証機(ATD-X)で蓄積された技術を元にステルス・高運動性能を備えた第5世代戦闘機として完成させた機体であった。特に機体形状に沿って配置する形のコンフォーマルレーダー「スマートスキン」の実用化を達成したことから、非常に強力なレーダー探知機能とそのデータを高速に処理する3000MIPSもの性能を誇るコンピュータシステムを搭載し、イージスシステムを利用して非常に強力なリアルタイム作戦行動が可能である。
 また、日本独自の制限で本格的空母を持つことができない現状から、軽空母から直接垂直離陸可能でF-15以上の戦闘能力を持つことなど、非常に厳しい性能と条件を要求されたことに対する回答が、魔法技術の最大限の応用で機体を開発するという裏技だった。
 機体のベースには既存のF-2を基本としながらも徹底的に軽量化と被弾性能の向上、そして機体剛性の強化を行い、独自開発したJF5-3Aジェットファンエンジンの搭載を可能にするための改良を行っていた。特に、このJF5-3Aエンジンはバイパス比で0.32、そしてその静止推力はドライ時122kN(約12トン)、アフターバーナー時173.5kN(約17.4トン)という、現在運用されているF-15Jのエンジン『F100-IHI-220E』の性能をはるかに上回る凄まじい性能である。このため、アフターバーナーを使わない、通常のミリタリー出力時でさえマッハ1.4の超音速巡航を可能にするほどの性能があるのだ。
 このエンジンは特に、F-2支援機の開発時にアメリカ合衆国の横槍を招くことになった基幹部品であったため、特に重点的に力を入れて開発されたのである。このことから技本は石川島播磨重工業を主契約企業として実証エンジンであるXF5-1の開発を進めていた。このXF5-1エンジンはターボファン方式のジェットエンジンであり、国産エンジンとして初めてアフターバーナーを実装した最先端のエンジンである。アメリカからの圧力を避けるために、わざわざ推力を5t程度にまで抑えて開発した、とまで言われるほどコンパクトで重量出力比は世界最高水準に達している、とさえ言われるほどのエンジンだ。それを元に、元々の全長約2メートルのエンジンから全長を約2.4メートルにまで伸張し、米国製戦闘機に搭載されているエンジンと同等以上に改良を加えたものである。当然の事ながら、各種魔法技術などをふんだんに盛り込み、極めて高い性能と同時に絶大な耐久性、信頼性を獲得した日の丸エンジンであった。
 また、主翼の根元と機首の付け根下部には内蔵されたリフトファンを装備し、垂直離着陸を可能にしていた。このリフトエンジンは最大積載重力の装備を実装してなお、VTOLを可能にする、という優れもので、イギリス軍が採用しているハリアーのものと違い、エンジンからの排気を直接推力にするわけでないため、甲板や滑走路を傷めにくいというメリットがある。これらのリフトファンは非利用時には機体内に完全に収納することが可能で、超音速飛行時の妨げにならないように配慮されていた。
 この最新の戦闘機は対人間用というよりはむしろ、そのVTOL戦闘機、という特質を生かしての対妖魔戦闘で最大の能力を発揮する。
 世界最強を誇るイージス艦の強力なレーダーシステムが韓国海軍の艦隊とそれを護衛するべく離陸した韓国空軍のKF-16の機影を捉えていた。それに対して航空自衛隊はすでにF-15Jを向かわせていた。
 まだ厳密には極秘にされているべき情報なのだが、既にC-130を改造した空中給油機が待機している。
 韓国軍のKF-16は米軍が所有するAMRAAMを装備していないのだが、自衛隊には独自に開発したアクティブ誘導ミサイルであるAAM-4が装備されていた。これは従来のAIM-7(スパロー)ミサイルが一度ロックオンして発射した後も、標的に着弾させるまでレーダー波を照射し続けなければならないため、回避行動が取れない、という欠点があったのに対し、この欠点を克服するためにアクティブレーダー誘導と指令・慣性誘導を併用したいわゆる“撃ちっ放し”ミサイルである。
 これは実際の戦闘において圧倒的な戦闘能力の差となって現れるのだ。
 例年行われている航空自衛隊とアメリカ空軍の合同演習でも、如何に戦闘機の操縦技量で引けは取らなくても、この撃ちっ放しミサイルの性能差で打ちのめされることは珍しくない。
 そのため、航空自衛隊もAAM-4という独自の撃ちっ放しミサイルを開発し、実戦配備を行っていたのである。
 そしてその有効性は実戦において証明されることとなった。
 100kmという長距離からAWACSの支援を受けて打ち出されたAAM-4はほぼ確実に韓国空軍のKF-16を捉え、海の藻屑へと変えていた。AAM-4の100kmという射程距離は韓国空軍の主力ミサイルであるAIM-7(スパロー)よりも2倍近い射程距離である。このアウトレンジから攻撃で、KF-16は一発のミサイルを発射することも出来ずに粉砕されてしまったのだ。
 航空機による援護を失った韓国海軍の艦隊はうろたえたように照準も定まらないまま無意味な発砲を繰り返している。
 その艦隊に片桐の指揮する海上自衛隊の艦隊は着実に砲撃を加えて打撃を与えていった。韓国海軍の放つハープーンミサイルは全て、イージス艦の自動迎撃システムで迎撃され、逆に自衛隊からの攻撃で着実に韓国海軍の艦艇は撃破されていく。それはまるでテレビゲームを見ているかのような一方的な戦いだった。
 
 緊張と興奮が高まる中、片桐はついに切り札を切る瞬間が来たことを感じていた。
 その切り札とは、防衛庁時代から極秘裏に開発を進めてきた電子励起爆弾(E2爆弾:Electron Excitation 爆弾)である。
 電子励起爆弾とは、予め原子の周りのエネルギーを高めた物質、つまり電子励起状態の原子を組み合わせて作った爆薬で作る、今までより飛躍的に高いエネルギーを持つ爆弾のことである。この励起したヘリウムの原子は原子同士が結合して常温から500℃までの温度で固体になり、その威力はシクロテトラメチレンテトラニトラミン(HMX)という工業的に生産されている爆薬としては最強の威力を持つ爆薬の三百倍以上のエネルギーを発生させる、と言われているのだ。(参照:http://ja.wikipedia.org/wiki/電子励起爆薬)
 自衛隊では二個の電子が励起したヘリウム原子を利用した爆薬の開発を行っていた。この合成は他に成功したという例は無いのだが、古代語魔法の創造魔術や付与魔術を応用することで安全に固体化した励起ヘリウム化合物を精製することに成功したのである。
 非核三原則の制約で核兵器を持つことが出来ない自衛隊にとって、通常爆弾の範囲内で強力な破壊力を持つミサイルを装備する、ということは相手の核攻撃に対しても対抗できる、という切り札を持つことを意味していた。この電子励起爆薬を用いた500ポンド(炸薬120kg)爆弾は実にTNT火薬に換算して恐るべきことに約70トン、という通常爆薬の最強の爆弾であるMOAB(Mother of All Bomb、炸薬8482kg)8.5発分を超える凄まじい爆発力を発揮するのだ。また、海上自衛隊に装備されている90式艦対艦誘導弾(SSM-1B)は弾頭重量が260kgあり、これにこの電子励起爆弾を搭載した場合、実にTNT火薬換算で150トンを超える恐るべき破壊力を発揮することになる。
 現在、ヘリウムは天然ガスを採掘する際に同時に採取することしかできず、その90%はアメリカ合衆国から算出されている。
 しかし、プロメテウスが創り出した油田からは、当然のように天然ガスも採掘ができる。
 新潟県の日本海にある「岩船沖油ガス田」の井戸など、天然ガスを採掘可能なガス田も日本にはある。当然のことだが、プロメテウスの創り出した油田からもガスを採掘が可能で、それ以外にも関東にも東関東ガス田が存在するのだ。このガス田は可採埋蔵量が3,840億立方メートルと、日本の国内天然ガスの消費量五年分にも達する巨大なガス田である。もっとも、この天然ガスは地下水の中に溶け込んでいるため、不用意にくみ上げすぎると地盤沈下を引き起こすきっかけとなる。そのため、プロメテウスと産業団体は水溶性ガス鉱床の中に地下水から天然ガスを取り出し、それを地上に輸送するという採掘方法を編み出していた。
 そのほかにも東シナ海にある白樺ガス田も同時に開発に着手していたのだ。実際にはこのガス田は日中の中間線上に位置し、大部分が日本側に存在しているのだが、中国側からガスを全て吸いだしてしまうことも可能である。そのため、プロメテウスは魔法を用いて中国が採掘可能な領域と日本の保有分に切り分けて、ガス田の鉱床を二つに分断してしまったのだ。内部で岩を崩落させて日本側に繋がっている鉱脈を塞いで、日本側のガスを吸い出されないようにしたのである。
 こうして確保した天然ガスからヘリウムを分離し、そして電子励起爆弾でつかうヘリウム化合物を安定して生産する体制を整えていたのだ。(http://www.media-yoshida.co.jp/tisui/e_and_w/no45/02.html
 
 また自衛隊とプロメテウスは独自にNN爆弾、いわゆる純粋水爆の研究も進めていた。これは日本の「非核三原則」に抵触しない形で核兵器を保有するためである。核、という大量破壊兵器による相互破壊保障は、現在の国際社会におけるパワーバランスに於いて未だ非常に大きな割合を占める。
 だが日本は広島、長崎に落とされた原爆の被害の記憶から核兵器に対しての感情的な反対論が根強い。それを、純粋水爆という放射能汚染を引き起こさない爆弾、としてそのアレルギーの一因を取り除く必要があったのだ。もちろん、それ以外にも現実的な必然性がある。
 現在、米国やロシア、中国などが実戦配備している水爆は小型の原爆を起爆装置として、重水素と三重水素を原爆の起爆に伴って発生する中性子を利用して核融合反応させ、爆発を引き起こす。そのため、仮に中国と戦争になった場合、核を用いた先制攻撃で中国側のミサイル基地を破壊したとしても、通常の核兵器では放射性降下物(フォールアウト)が偏西風に乗って日本に到達してしまう。こうした事から、その破壊地域の一帯に中性子が撒き散らされる、現在のように原爆を起爆装置とする水爆は絶対に開発をしてはならない兵器だった。
 通常、水素はそのままでは核融合反応を引き起こすことは難しい。そのため、重水素や三重水素を用いて核融合反応を誘導してやる必要がある。
 しかし、重水素は天然の水中に5000分の1の割合で含まれているため抽出が容易で安価である一方、三重水素は天然にはほとんど存在せず、原子炉内でリチウムに中性子を照射して製造しなくてはならないため、非常な時間と経費がかかる。
 (http://ja.wikipedia.org/wiki/水素爆弾)
 プロメテウスはこの起爆装置の部分である原爆を独自開発した電子励起爆弾の一種であるフラッシュ爆弾に置き換えて、純粋水爆の実現に成功していた。
 このフラッシュ爆弾は通常の電子励起爆弾とは異なり、強力な爆発力と熱の噴射だけではなく、その化学反応時に強力なガンマ線を発生させる。そのガンマ線を用いて中性子を発生させて、重水素を凝固させているリチウム化合物と反応させることで核融合反応を引き起こすのだ。
 
 航空自衛隊のF-2支援機が超低空飛行で韓国海軍の旗艦である「広開土大王」に接近していく。ただ、この兵器の性質上、あまり至近距離まで近づきすぎるとその凄まじい爆発の衝撃波に巻き込まれる危険性があった。
 F-2のパイロット達は片桐の目から見ても鮮やかな操縦で素晴らしい機動を繰り返して嵐のような砲撃を巧みに擦り抜けていく。
 片桐達も全力でF-2の果敢な攻撃を支援するためにイージスシステムに連なる全ての艦艇の総力を挙げて絶妙な援護を行っていた。
 そして、その瞬間が来た。
 一機のF-2支援機が鋭く旋回を行いながら一発のミサイルを放つ。
 鮮やかなロケット噴射の白煙が美しい軌跡を描きながら韓国海軍の旗艦に吸い込まれていくように飛翔していった。
 その時、片桐は同じように無事に帰ってくることを願う家族がいるであろう韓国海軍の軍人たちのことを考えていた。
 AAM-4をベースに開発されたアクティブ誘導の空対艦ミサイルは迎撃を避けるために俊敏に機動をしながらマッハ4を遥かに超える凄まじい速度で鋼鉄の艦体に突き刺さる。その瞬間、そのミサイルの弾頭に内蔵された電子励起爆薬が炸裂し、そのTNT爆薬の500倍以上という恐るべき爆発力のエネルギーが無制限に解放されていた。
 その光景を捉えたビデオカメラには内部から弾けるように膨れ上がり、まるで紙風船のように破裂していく韓国海軍の旗艦の姿が捉えられていた。
 真っ二つに折れ曲がりながら、まるでCGによる特撮効果のように膨れ上がりながら弾け跳ぶ鋼の塊がまるで冗談のように片桐達自衛隊員の目に映っていた。そしてその巨大な艦体を粉砕した衝撃波は歪な円となって一瞬にして周囲に広がり、旗艦を護るように展開していた数隻の護衛艦を飲み込んで激しく揺さぶる。
 小型の原爆にさえ匹敵するその恐るべき爆発力は一瞬だけその旗艦のいた位置の海面を数メートルも凹ませて、その揺り返しの波が衝撃波に襲われた護衛艦艇を更に強く揺さぶった。その強大な力に耐え切れず、船体に幾つかの裂け目を発生させた護衛艦体は戦闘能力を失って完全に停止していた。
 旗艦を一瞬にして文字通り消滅させられた韓国海軍は直ちに一切の砲撃を中断して白旗を掲げ、降伏の意を表したのである。
 そしてその電子励起爆弾の凄まじい破壊力に恐慌をきたした韓国海軍は先を争うようにして投降し、降伏していった。
 
 僅か一日、数時間の戦闘で韓国軍は旗艦である「広開土大王」と巡洋艦、駆逐艦など合計7隻に加え潜水艦も2隻を失い、そして戦死者4000人を超える被害を出し、日本国内では一部にそのあまりにも強力な兵器の使用に非難の声が上がったものの、六十数年ぶりに戦争に勝利した、という歓喜の声が世間に広まっていたのだ。
 一部のマスコミは戦前回帰だ、として何とかその声を押さえ込もうとしていたのだが、逆にインターネットの有力サイトや巨大な掲示板、個人のブログなどで、「マスコミによる世論誘導だ!」との非難が高まり、厳しい批判の声に反論することもなく、いつの間にかその論調を別の話題に切り替えてしまっていた。
 韓国側からの攻撃で始まったこの戦争のため、日本のリベラル派の論調も厳しい口調で日本政府を非難することもできず、お決まりの「武力での衝突は残念な事態であり、今後は両国の友好的な発展を願う」という、いつもの詭弁に終始していたのだ。
 様々な戦後協定が結ばれ、そして莫大な韓国からの賠償を受け取った日本は同時に新しく日韓構和条約を締結し、第二次世界大戦後の戦後処理が完全に解決されたことなども明文化して、終戦処理が進められていた。その中で日本は疲弊しきった韓国に対しても海軍の廃止と空軍の制限を含むほぼ完全な武装解除を行い、同時に竹島などの懸案となっていた領土問題を最終的に解決していたのだ。
 これにより、日本の戦後レジームからの脱却が大きな形で達成されることとなったのである。
 在日朝鮮人や在日韓国人は古代語魔法による<制約ギアス>をかけられた上で朝鮮半島に送還されることとなった。これは「朝鮮半島から出ることを禁じる」という制約で、統一朝鮮の領土ならびに領海から一歩でも出た場合、凄まじい苦痛に襲われることとなる。
 また、旧韓国が敗戦を認める直前にアメリカ合衆国や世界の各国が次々に旧韓国に宣戦を布告し、実質的な戦勝国連合として厳しい戦後賠償を突きつけていた。
 日本は日米安保条約を結んでいることからアメリカ合衆国が日本の同盟国として戦争に参加すると同時に、米国と同盟関係にある国がそれを利用して韓国に対しての戦争に参加したのである。
 結果として旧韓国、ならびにその継承国家である統一朝鮮は莫大な戦後賠償を日本並びに戦勝国連合に支払うこととなったと同時に日本から在日朝鮮人の送還を受け入れさせられたように、各国に居住している不法滞在の韓国人や朝鮮人の引取りを強制されたのだ。
 当然の事ではあるが、これらの強制送還対象者にもまた、<制約>の呪いが掛けられ、統一朝鮮領域外へ出ることを禁じられていた。
 もともと韓国自身の新聞にも報じられて問題になるほど韓国人は世界各国で現地の人々と摩擦を引き起こしたり、事件や犯罪を犯す割合が高かったため、一部にあがった人権侵害の可能性の指摘もうやむやのままに黙殺されてしまっていたのである。(参照:http://japanese.joins.com/html/2003/0902/20030902194417400.html、http://japanese.chosun.com/site/data/html_dir/2001/02/12/20010212000005.html、http://japanese.joins.com/php/article.php?sv=jnews&src=soci&cont=soci0&aid=20020419174232400)
 アメリカ合衆国において、不法移民と売春の最も多い民族の一つであり、アメリカ合衆国が世界で唯一、渡航者に対してレイプ被害の警戒をするように、と勧告しているのが大韓民国である。(参照:http://travel.state.gov/travel/cis_pa_tw/cis/cis_1018.html、http://japanese.joins.com/article/article.php?aid=77026&servcode=400§code=400)
 また、ロス暴動も現地の韓国系住民が黒人の少女を発砲して殺害した事が引き金となり、怒った黒人グループが韓国系の商店を焼き討ちしたのだ(参照:http://ja.wikipedia.org/wiki/ロス暴動)。実際、ロス暴動の被害の半分近くが韓国街であったことや、韓国街とリトル東京は隣接しているにも拘わらず日系の商店などは全くと言っていいほど被害に遭わなかったことからも、これが裏付けられる。他にも「Korean」という言葉が差別的である、として「コリアンという単語は黒人・ラテン系は歓迎しないという意味を含むので使用を禁止する」というアメリカ連邦法院の仮処分命令も出ている(参照:http://kuyou.exblog.jp/993961/、http://www.chosun.com/w21data/html/news/200308/200308310210.html)。
 米国だけでなく、メキシコやアジア諸国などでも現地住民とのトラブルが頻発し、大問題となっていたため、日韓で起こった戦争で日米安保条約に従って戦争に参加したアメリカに協力する形でこうした国々が対韓国で参戦することとなったのだ。
 ある意味で自業自得である。
 彼ら韓国籍や朝鮮籍の人々を朝鮮半島に送還するのにも、船での送還となり、当然の事ながらその全ての費用は統一朝鮮の負担とされた。そしてその半島の統治は国連の信託統治として施政されることとなり、名称も『朝鮮半島特別行政区』となったのである。
 結局、この日韓戦争が事実上、人間の国家同士が正面衝突をする現代戦争の最後の戦争になった。
 
 その日、水蓮は少し不機嫌だった。
 幾ら日本でずっと暮らしていくのだ、と決意したとはいえ、連日のように対朝鮮戦争勝利、との報道が繰り返され続けていては帰化したとはいえ朝鮮民族の彼女としては面白くない。
 だが、それもある意味で仕方が無いのかもしれない。それほどまでに旧北朝鮮の朝鮮総連や旧韓国の民潭は日本人に対して理不尽に振舞ってきたのだ。また、戦争の最中に電通のビルが火事になる、という火災事故があり、また創価学会の名誉会長や統一教会の教祖など、日本の政治や経済に強力な影響力を持つ人物が次々に事故にあったり不審な死を遂げる、という出来事が頻発し、結果として日本における第二次世界大戦後の戦後勢力が一気に駆逐されてしまったことも大きいのだろう。
 水蓮や彼女の家族は日本人として帰化したのだが、それでも不審な目で見られることもあった。
『ずいぶんとご機嫌斜めだね』
 眞が優しく声をかける。その声に少しだけささくれ立っていた心が落ち着いていくのを感じていた水蓮は、少しだけ拗ねるような口調で文句を言った。
「だって、もう戦争が終わったし、統一朝鮮も・・・、じゃなかった、今はもう朝鮮特別行政区ね、も賠償を支払って、それでもまだこんなに戦争のことを言うなんて・・・」
 と口にして、ふと彼女は第二次世界大戦後の日本も、60年以上も韓国や北朝鮮、中国などから“戦争の反省”を執拗に言われ続けてきたことを思い出し、口を閉ざした。ある意味で日本人の人の良さに甘えて中国や韓国、北朝鮮などは打ち出の小槌のように見ていたとも思える。
 だが、最終的にキレた日本の凄まじさを身を持って思い知らされる羽目になったのが北朝鮮とのなし崩し的な統合を余儀なくされた韓国であった。ある意味では昆虫に滅ぼされた中国共産党政府よりはマシかもしれないが、文字通り一方的に粉砕された戦争の代償は余りにも大きなものとなって朝鮮半島に背負わされたのである。
 聞くところによると、余りのその凄まじいまでの戦闘能力に恐れをなしたのか、朝鮮半島では日本に対する非難の声が殆ど上がらず、むしろ無謀な戦争を仕掛けたとして旧政権の幹部や官僚たちを吊るし上げているらしい。
 それは日本がかつて戦った第二次世界大戦での敗戦においての自国政府への責任の追及、という状況と一見似たように見える。しかし、日本のそれは実際には在日朝鮮人勢力に半ば乗っ取られていたマスコミや共産革命を目指す共産主義者、そして二度と日本が米国に対して対立をしないように画策したGHQによるWGI(ウォー・ギルト・インフォメーション)プログラムによる検閲の結果など、そのように刷り込まれていったという側面が大きい。
 インターネットによる情報革命が起こった後で見てみれば、結局そのような自国政府を非難しているのはマスコミや過激派や中核派、日教組関係者や在日朝鮮勢力などだったというのがそれを明確に物語っている。
 それに対して、朝鮮半島ではそのような画策が行われなくても、既にそのようにかつての政権中枢部を非難してバッシングを行っているのだから水蓮は呆れてものが言えなかったのだ。
 いずれにしてももう済んだことだ。
 これからどうするかは朝鮮半島に住む者たち自身で決めなくてはならない。
 今後の朝鮮半島の将来を考えると気持ちが暗くなる。三星や現代、POSCOなどの韓国を代表していた企業は既に賠償の一部として売却され、そして厳しい貿易制限で海外からの物資の輸入はおろか製品の輸出にも制限が掛けられている。その上で渡航さえも制限が掛けられていたのだ。魔法による渡航制限の制約は恐ろしく厳しいもので、朝鮮半島とその排他的経済海域に結界を張る、というものでこの境界を越えるものは<制約>の呪文と同じ凄まじい苦痛によって阻まれてしまうのだ。
 さらに日本に対してはその領域に入ることも同じように禁じられていた。それは魔法による呪いで、子孫に対してもこの魔法の制約は継承されていくという恐るべきものだった。
 逆を言えばそれだけ榊原や眞たち保守派の凄まじいまでの怒りの強さを物語っていた。
 その事を思うと水蓮は胸が苦しくなる。
 だから、彼女は永遠に眞の力になり続けることを誓っていたのだ。
 
 
 

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