~ 4 ~
【眞! 右手前方!】
智子が切羽詰った声で眞に警告を伝えてくる。 もちろん、眞もクープレイの魔法レーダーに巨大な存在が映し出されたのを確認していた。凄まじい魔力を持った存在だった。 【眞様、お気をつけてください。非常に強力な魔力をもった存在が実体化しようとしています。この魔力のタイプから推測すると、強力な精霊力を持っている存在と思われます!】 眞はそのフレイアの言葉からぞっとするような推測を得ていた。 【トレントン、亮、アーレス、気をつけろ! おそらく、この実体化しようとしてる奴は精霊王だ!】 その眞の言葉に、D.E.L.に繋がっている全員が耳を疑う。 【な・・・、ばかな、どうやって精霊王が実体化しやがるんだ!】 亮の罵声が眞の脳裏に響く。 だが、亮自身もその理由に気づいていた。 何者かが強力な魔法の宝物を用いたに違いが無かった。 精霊を封じる、そしてその力を利用する魔法の宝物は数多く存在する。古代王国の最後の王都であるフリーオンは、その都市自体が精霊を操る巨大な魔法装置そのものだった程だ。 人は完全に自然の理を理解しているわけではない。しかし、自然の力を利用するということは精霊を使役することに他ならない。 だからこそ、カストゥールの魔術師たちは自らの魔力で精霊を支配し、使いこなすことで自然を、そして世界を屈服させようとしたのかもしれない。だが、それは愚かで傲慢な考えだったのだろう。 近年フリーオンで発見された歴史書には、かの偉大なる魔法王国が如何にして滅んでいったのか、が記されていた。 カストゥール王国の最後の王都となったフリーオンは、文字通りその魔法技術の全てを結晶させた至高の都だった。地下に半球状に作られたその都市は、その機能の全てを精霊の力を支配し、使役することであらゆる自然の災害から開放された環境を実現していたのだ。大地の精霊王を支配し、都市の重力を操り、そして都市の中央には炎の精霊王が永遠の太陽として光り輝いていた、と記されている。 その全ての精霊を古代語魔法の奥義により制御された都市は、あっけなく最後のときを迎えることとなった。 これほどまでの魔法を用いて自然界の理を司る精霊王を強引に支配し続けることは余りにも無理があったのだろう。 あるとき、大地の精霊王の一柱が異変を起こしたのである。 その狂った大地の精霊王は周囲のあらゆる精霊力を飲み込み、その強大な力で暴走を起こしていったのだ。凄まじい竜巻を操り、口から炎を吐いて暴れまわった大地の精霊王はやがて、巨大な人型の姿へと変貌して言ったといわれている。 あるフォーセリアの終末の伝承には、こう記されていた。 『やがて世界は終末の巨人に飲み込まれ、終焉を迎える。そして永遠の時間の後、新たなる始源の巨人の死によって新たなる世界が再誕する・・・』 結果としてその魔精霊はカストゥールの魔術師たちの魔法の奥義を終結させた究極の魔法剣により倒されたのだが、その代償とも言える形でカストゥール王国はその力の源である魔力の塔を失い、そして蛮族達に滅ぼされていったのである。 今でもフォーセリアの各地には精霊の力を封じたり、使役する魔法の宝物が発見されるのはこの為だった。 その中には精霊を封じ、使役する、という恐るべき魔法の宝物さえ存在するのだ。 おそらく、ロマール軍の魔術師はそうした魔法の宝物を使ったのだろう。 【フレイア、“村柾”を転送!】 眞がフレイアに命じた。 村柾、とは眞が開発を進めている禁断の兵器の一つである。だが、これほどの力を持った存在であれば、禁断の兵器を使っても撃退できるかどうかわからない。 【しかし、眞様、村柾はまだ開発途中です。このような状況で実戦に用いるのは危険すぎます!】 開発途中の兵器を実戦に運用する、ということの危険性は眞も理解している。だが、他の手段を考慮している余裕などない。流石に精霊王が顕現したなら、クープレイもヴァンディールも役不足だ。 【いいから転送しろ! このままだと全員死ぬぞっ!】 眞は苛立たしげに怒鳴りつける。 凄まじい魔力の気配は、もはや全員の肌に感じられるほどに強まっていた。 一瞬、眞のすぐ近くで魔力が高まり、金色の光が爆発的に膨れ上がる。眞は躊躇せず、その光の中に手を差し入れ、一振りの日本刀を取り出した。 (間に合うか・・・) 手にした日本刀を鞘から抜き放つ。 繊細な雲を思い起こさせる波紋が濡れたような光を放っていた。 MURAMASA-村柾、という名の魔法の刀である。実際の刀身は古代語魔法の奥義と量子工学の技術を用いて本物の村柾を映しとって使用しているため、村柾の銘を付けても問題は無い。 【眞・・・気をつけて・・・】 智子が不安を隠せない声で眞に声をかけた。 【ああ。亮、マッキー、全員を退避させろ! 敵も味方も関係ない、全力で撤退だ!】 そう怒鳴り声を上げ、眞は自らの着用しているSSIVVAの稼動レベルを引き上げる。 銀色の意匠を凝らした装束が眞の意思に従って鎧のように変形し、彼の全身を包み込む。そして、白銀の魔法のオーラが眞の全身から蜃気楼のように溢れ出していた。それはシミュレーション画面でしか見たことのない、第五階梯で発動したSSIVVAの姿だった。 【ま、眞・・・そんな・・・】 ルエラが恐怖に怯えたような声を上げた。 かつて、眞がダイダロスの金床で ましてや第五階梯のSSIVVAなど、およそ人間が耐えられるような代物では無い。それを、眞は発動してしまっていた。着用者の安全を図るため、SSIVVAには保護システムで稼動レベルを制御されている。着用者が如何に望もうとも、その強力な戦闘能力増幅システムによる反動に耐えられないと判断された場合、SSIVVAは展開プロセスを開始することはない。 だが、眞は恐るべきことにそのSSIVVAの第五階梯を発動していた。 今の眞なら、古竜さえもまともに戦って撃破出来るだろう。ルエラから見ても恐るべき戦闘能力と魔力を感じさせる。 しかし、その反動の強さは今まで着用していたSSIVVAの比では無いだろう。 眞はMURAMASAを手にして、その調子を見るように軽く振るう。 ヴゥン・・・、と鈍い音が響いて、MURAMASAの振るわれた軌跡の向こうの景色がぶれて見えた。そう、MURAMASAは精霊王や魔神王、アトンなどの通常兵器では対応が極めて困難な敵をその存在している空間もろとも破壊し、世界の外に放逐するための「相転移兵器」として開発された魔剣なのである。 必要とする魔力が膨大なため、魔力の塔などを用いて桁違いの魔力を供給してやる必要があるが、人の手に負えない存在に対して有効な破壊力を発揮するはずであった。 そして・・・ 【眞様、目標の判別が完了しました。やはり精霊王です。炎の精霊王、フェニックスです!】 【判った! 行くぞっ!!!】 眞が気合の声を上げ、MURAMASAを振りかぶって精霊王に突撃する。 SSIVVAによる重力制御の働きで、眞は電光のような速さで巨大に燃え上がる蒼い炎の鳥に向かって駆け抜けた。 その炎の鳥の体高は人の3倍ほどだろうか。だが、その実体以上に巨大に見える。 眞は足元まで駆け寄り、そしてMURAMASAの刃を精霊王の右足に叩きつける。だが、流石に炎の精霊王は強力な炎の精霊力を身に纏っているため、MURAMASAの刃はその青白くに輝く炎のオーラに阻まれてしまった。そして、精霊王はじろり、と眞を見て凄まじい炎の嵐を叩きつけてくる。 恐るべき一撃だった。 眞はかろうじてその炎を交わすと、重力制御の力を利用して一気に空中に飛び上がる。 「くっ!」 強力な衝撃波が一瞬前まで眞が立っていた場所を揺るがしていた。 (流石にとんでもない相手だな・・・) 刃が通らなければ、MURAMASAの魔力である相転移の力を発動できない。無制限な力の発動を防ぐと同時にその膨大な魔力の消耗を回避するため、MURAMASAはその刃に触れた対象しか相転移させられないのだ。 しかし、その刃が通らなければ流石にMURAMASAとはいえ唯の魔法剣でしかない。 炎の鳥は空中に飛び上がった眞に向けて視線を走らせる。その瞬間、恐るべき炎の魔力が強烈な衝撃を伴って放たれた。反射的に眞は魔法障壁を展開しながら全力で回避する。 青白い魔法障壁がびりびり、と振動して魔力の場が砕けそうになった。 「・・・直撃してないでもこれかよ!」 その恐るべき力に眞は戦慄を覚えていた。これほどの力の持ち主を見たのは初めてだった。上位魔神や森の巨人など、流石に炎の精霊王と比べるとその実力は像と蟻ほども違う。 だが、それでも眞は気持ちが高揚してくるのを感じていた。圧倒的に違う力を見せ付けられ、それでも眞はその力に対応する方法を模索している自分に気が付いていたのだ。 心のどこかでそんな事を感じながら、眞は凄まじい力で放たれる精霊の王の攻撃をかわし、自らの力を叩きつけていた。 「何故に我に歯向かうのだ・・・人間の子よ・・・我は全てを浄化するもの・・・」 不意に炎の精霊王が静かに語りかけてきた。 不思議なことに怒りの声ではなく静かな深い慈しみに満ちた声だった。 「殺されそうになって、はいそうですかって素直に殺されるような奴がこの世にいるか!」 眞は怒鳴り返す。勝手に浄化されたのでは堪ったものではない。 しかし、その凄まじいまでの力に流石にSSIVVAを展開した眞も攻めあぐねていた。 その神とさえ見まがうほどの恐るべき力を目の当たりにして、ファールヴァルト軍の兵士達は圧倒されていた。自然の力を支配する精霊王は、まさに神にも等しい存在といえる。少なくとも人が立ち向かって敵う相手だとは思えなかった。 だが、その強大な存在にたった一人で戦いを挑んでいる眞を目の前にして戦意を喪失していく兵士達に苛立ちを覚えたのか、ルーシディティは眞から与えられた魔晶石を掴み、そして高らかに一言、神聖語を唱える。魔晶石から流れ込む強い魔力を集中させ、通常であるならば届くことのない距離を越えて<気弾>の呪文を唱えていた。 もちろん、ルーシディティの魔力では精霊王の魔力を打ち破ってその仮初の肉体を傷つけることさえできない。 しかし、最後まで諦めることはできなかった。 「し、司祭様・・・あの精霊王に立ち向かうことができるのですか・・・」 完全に動揺しきった兵士の一人がルーシディティにうろたえたように問いかけた。 ルーシディティは兵士にゆっくりと、しかしきっぱりと答えを返す。 「敵うかどうか、それは判りません。ですが、このまま強大な敵の存在に怖れ、そして何もせずにむざむざと死ぬことは、あの炎の王に一人、立ち向かっているあの方に申し訳が立ちません。死にたいのなら、この場で自らの喉を貫きなさい!」 (私は諦めない。たとえ死ぬと判っていても、あの人が命を賭けて戦う以上、最後まで全力をだします。) そのルーシディティの雰囲気に圧倒されたのか、兵士達が雷に打たれたように立ち尽くし、そして眞と精霊王の死闘の場に向き直った。 精霊王は自らに魔法の衝撃波を放った人間の女仔細を睨みつける。その怒りを叩きつけようとした精霊王に、しかし、眞は全力の一撃を打ち込んでいた。 「どこを見ている! お前の相手は俺だ!」 ファリスの女司祭にぶつけ損なった怒りを向けるかのように、炎の精霊王は眞に向けて強力な魔力を投げつける。だが、眞はそれを予測していたように軽やかにかわした。 それでも炎の化身たる精霊の王は次々と攻撃を繰り出してくる。 その凄まじい攻撃にファールヴァルト軍も、いや、その場にいる誰もが言葉を失っていた。 「な・・・んて・・・力だ・・・」 辛うじて亮が言葉を口にした。 その力は圧倒的で、眞が真正面に立って戦いを続けていられることが信じられないほどだった。 亮は自分の無力さを心の痛みと共に実感させられていた。 だが、今は眞の命令に従って全軍を安全な場所に避難させなくてはならない。しかし、避難させることに成功したとしても、あの精霊王を倒せなければ意味がないだろう。 「英二、全員を退避させたら俺たちも行くぞ!」 同じように眞の戦いを見つめていた英二に声をかける。 英二は驚いたような表情で亮を見つめ返し、楽しげな笑みを浮かべて頷いた。 「お前も同じ事を考えてやがったのか」 「当たり前だろう。あいつを一人で死なせるものか」 自らの死を実感しながら、それでも立ち向かいたかった。 眞は必死の形相で精霊王の攻撃を回避しながら、果敢に突撃を繰り返して何とかその手にした妖刀の刃を神の肉体に突き立てようとする。だが、その魔法のオーラに阻まれて、どうしても刃を届かせることが出来ない。 フレイアは転移の魔法を発動し、次々にファールヴァルト軍、ロマール軍、そして戦場にいるあらゆる人間を王都エルスリード郊外の草原に移動させていた。いつ、眞が精霊王にMURAMASAの刃を付きたて、その相転移の魔力を発動するかわからないため、全ての魔力を一気に使ってしまうわけには行かないのだ。 強力な結界を張り続け、MURAMASAに魔力を供給し続けながら、その余剰の魔力を用いて人員を転送し続けなければならない。 眞はその精霊王の恐るべき猛攻に耐えながら、じっと反撃の機会をうかがっていた。もはや普通の方法ではあの炎のオーラを破壊して身体にMURAMASAの刃を届かせることは出来ない。残る方法は自らの持つ全ての力を『滅びの輝き』にして魔法のオーラを打ち砕き、そのまま炎の王に可能な限りのダメージを与えることだけだった。 自分の力がどこまで自然の王に通じるかはわからない。 だが、残された方法は他にはなかった。 そして、それほどの力を振るった時、どんな反動が引き起こされるのか、眞自身にも想像が出来ない。このSSIVVAの反動と合わさって、無事ではすまないだろう。 しかし、それでも眞はその方法しかないと考えていた。 (何、後は亮や英二が上手くやってくれるさ・・・) 少なくとも二人とも物理魔法工学や魔法科学技術を十分に理解しているし、ファールヴァルト王国を運営するのに十分な人材が揃っている。 悦子や葉子達のことは、考えないようにした・・・ ずるいかも知れない。だが、それを考えても、もうどうしようもないのだ。 そして、眞は遂に一瞬の隙を精霊王の攻撃の合間に見出した。 突然、白い魔法の光が爆発し、一瞬の後に巨大な竜が姿を現す。 ヴァンディールが瞬間移動の魔法をつかってこの戦いの場に現れたのだ。口をぐわっと開き、金色に輝く稲妻の刃を炎の王に叩きつける かつて古竜は神々の大戦で神々を滅ぼし去ったという。ヴァンディールはその古竜にも匹敵する力を持つ、この極東地方最強の老竜である。 その力は精霊の王とはいえ通じないことは無い。 その雷の刃に焼かれ、炎の精霊王は苦悶の声を上げた。 「行けえっ!!!」 眞は爆発的に己の持つ『滅びの輝き』の力を解き放つ。黄金のオーラが眞の肉体から溢れ出し、炎の王のオーラに叩きつけられた。 「おおおっっっ!!!」 気合の声を上げ、眞は極限までその力を解放する。しかし心の何処かにあった自らの力を行使することの恐れは眞に全力で力を使わせる事を躊躇わせていた。 自分の力に対する恐れ。 それは圧倒的な力を持つものだけが感じる自分に対する恐怖だった。 眞はその自らの心に宿る恐怖を実感していた。余りにも恐ろしいその力・・・ 幾ら全力を振るおうとしても、心の中に蠢くその不安が眞に力を振るうことに躊躇いを感じさせていたのだ。 眞は自分の心のなかに拭いきれない恐怖が存在することに、激しい苛立ちを覚えていた。 (俺はもう、エスのような犠牲を出さないって決めただろっ!) 必死で自分の心の乱れを押さえ込み、力を振り絞ろうとする。 眞の持つ『滅びの輝き』の力と精霊王の力が真正面からぶつかり合っていた。凄まじい力と力の激突が大地を揺るがし、天を震わせる。それは 【ま・・・どか・・・凄い・・・】 智子が呆けたような声を漏らすのを、亮はどこか遠くで聞いているような気分だった。 眞の持つこの破壊の力が恐るべきものだということは知っていたつもりだ。だが、現実に実体化した精霊王とも互角の激突がが可能なほどだとは思いもしなかった。自分の想像を絶する力がこの世界に存在することを初めて思い知らされていたのである。 遥かかなたの王都エルスリードからもその黄金の光を見えていた。 「眞・・・お願い・・・死なないで・・・」 いつもは宝石のように輝いている悦子の瞳が涙に揺れていた。 フレイアの提供するモニタ・パネルを利用すればもっと詳細の画面をズームで見ることができるのだが、誰一人として眞の離宮にいる女達は幻影魔術による仮想画面を見ようとはしていない。遠くはなれた淡い輝きではあるが、直接、眞の放つ光を見ていたかったのだ。 永遠とも思えるほどの時間、眞と精霊の王は力をぶつけ合っていた。 ヴァンディールも攻撃を試みてはいたが、両者の放つ余りに強い力に弾かれ、次の手を打てずにいた。いや、むしろ老竜であるヴァンディールでなければこの場に踏みとどまることすらできなかっただろう。 (・・・眞・・・耐えられるのか・・・) ヴァンディールの意識が眞の心に響く。 だが、眞にはその声に応える余裕など無かった。 ファーレンとランダーも、亮と英二、そしてルエラ達とともに心の底から恐怖を実感していた。余りにも凄まじい力を見せられて、自分の無力さを虚しく思い知らされていたのだ。 あの精霊王がこのまま眞を押し切ったら、もはや次に打つ手は無い。 自然の力を司る精霊王に敵うはずが無い・・・ そんな絶望的な思いが全員の心に重く圧し掛かっていた。 だが、ルーシディティだけは一人、違う覚悟を決めていた。もし眞が敗れたなら、彼女は最後の手段を使う決意を固めていたのだ。 まだその奇跡を起こせる自信は無い。 何千回もの祈りを捧げ、己の信仰心を極限まで高めた最高位の司祭にのみ可能な奇跡である。 それでも、彼女のすべてを代償にしてでも願うつもりであった。 あの炎の王を滅ぼすために、ファリスを己の肉体に降臨させるのだ。 そのためにはルーシディティの魂が代償になる。その神の圧倒的な力を受け止めるには、人の魂は余りにも小さすぎるのだ。そのため極めて少数の例を除けば、この偉大なる奇跡の代償として神の降臨を願った司祭の魂は砕け散ることになる。 愛する人が護ろうとした王国を、あの邪なる破壊の力から護るためには己の魂など惜しいとも思わなかった。 (眞・・・私があなたの願いを受け止めるわ・・・) だからこそ、眞の戦いに割り込むような真似は出来なかった。少年が全力で神にも等しい精霊の王に立ち向かうのは、この世界を愛するがためであり、そして自らの強さと全てを強大なる敵にぶつけているのだ。 それ故に女の自分が、男が命と全てを賭けて戦う場に足を踏み入れることは出来ないのだ。 亮と英二もSSIVVAを展開し、そして切り込む機会を窺っていた。あの凄まじい力の嵐の中では流石のSSIVVAでさえ耐えられるかどうか判らない。ましてや眞の展開している第五階梯ではなく、亮も英二も第二階梯までしかSSIVVAを展開できていないのである。 それでも彼らは逃げることを考えていなかった。命を懸けた戦いを共に過ごしてきた眞を、フォーセリアと言う異世界で時間を共有してきた親友を見捨てることなど出来なかった。 ルーシディティはその二人の覚悟に気がついていた。だから、彼女は亮と英二があの恐るべき敵に向かってしまう前に、ファリスの魂を自らの肉体に降臨させるつもりでいるのだ。 眞の放つ黄金の光と精霊王の炎のオーラが永遠とも思えるせめぎ合いを繰り広げていた。 その圧倒的な破壊の力とは裏腹に、どこか幻想的で美しい絵画のような光景であった。 だが、炎のオーラが黄金の輝きを徐々に押し返し始ていることに誰もが気がついていた。精霊王の力が眞の破壊の力を上回り始めていたのだ。 (やっぱ駄目か・・・) 気力の限界まで力を振り絞っていた眞は、長時間の力の発動に徐々に意識が遠のき始めたことを自覚していた。 これほどまでの力を発動した経験など、もちろん無い。それが眞を予想以上に消耗させていたのだ。 (ごめん・・・) 不意に涙が溢れ出しそうになった。 俺は本当に全力を出し切ったのかな・・・ 自分を信じてくれる人たちを護りたくて、自分に対する恐怖を抑えながら必死で力を振り絞っていた。自分に出来ると、そう信じて。 そう、眞の心には常に恐怖があり続けた。それは敵に対してではなく、自分自身に対する恐怖。目の前の炎の王でさえ、本当の意味では恐怖の対象にはなっていなかった。 目の前には精霊王の放つ灼熱のオーラが滝のように迫ってきている。 眞は自分の身に死が近づいていることを実感していた。 それでも、そのことに恐れは感じなかった。いや、むしろ何処かで安らぎを感じていたのかもしれない。 もう、これ以上、破滅の恐怖に怯えなくてもいい・・・ そんな考えが頭のどこかに浮かんだ。 その瞬間。 (マドカ、何を考えているの!) 何処かで聞いた懐かしい声が眞の心に響き渡った。 そして目の前に、眞が求めてやまない姿が現れる。 栗色の艶やかな長い髪。小麦色に日焼けした健康的な肌。彫りの深い、しかしまだあどけなさの残る少女の微笑みは、眞の記憶そのままだった。 「エス!」 眞が驚きと歓喜の声が思わず口をついていた。 そして、次の瞬間、眞はエスペランサの姿が灼熱の光に飲み込まれそうになっていることに気付く。そして、彼の心に熱い衝動が膨れ上がっていた。 絶対にエスを傷つけさせない! 怒りとも殺意とも取れる凄まじい衝動に突き動かされ、眞は精霊王のオーラを押し返していた。 「・・・てめぇ、エスを巻き込もうとしやがって・・・もうキレたぜ・・・後の事なんざ知るか・・・」 自分に対する恐怖も、目の前の敵が世界司る精霊の王であることも、もはや眞の心から消し飛んでいた。 マジでぶっ殺す!!! そして、爆発的に黄金の光が膨れ上がり、今までのそれとは比べ物にならないほどの勢いで炎の王に襲い掛かる。さっきまでの輝きが小さなせせらぎだとすれば、今の眞の放つ光は全てを飲み込む津波だった。 「何と・・・!」 自然を司る炎の精霊王が驚愕の声をあげた。 黄金の光が灼熱の炎のオーラを押し返し、そして、それを打ち砕くように精霊王に襲い掛かる。 (まったく、おがっちゃんは精霊の王様までびっくりさせるかね・・・) 智子が自分でも間抜けなことを考えてるな、と冷静でいる自分に驚いていた。心の何処かで眞のことを知っているような気がする。 幾度と無く繰り返されたシミュレーション。 膨大なパラメータを調整しながら繰り返したSSIVVAやナイト・フレームの創造の中で、智子は自分でも気がつかないうちに“緒方眞”という存在の本質を見抜いていたのかもしれない。 そもそも、眞の持つあの力は異常だ。 一体、“緒方眞”とは何者なのだろうか・・・ そんな疑問が不意に智子の心に浮かび上がった。 今まで当たり前のように思っていた眞の持つ力は、確かに冷静に考えれば異常なものだ。このフォーセリアに転移させられてこなければ、あるいはその異常さを正しく認識できていたのかもしれない。だが、この異世界フォーセリアでは魔法や神、精霊が実在するだけでなく、様々な怪物や妖精等もいる。 そんな中で眞の力も何となく、そんなものなのだと思っていたが、眞の力は確かにユーミーリアにいたときからあった。こんな大規模で強力な力の発動ではなかったのだが、智子は眞が力を使って危険を退けた瞬間を見たことがあるのだ。 他の誰も気が付かないほどの一瞬の、小さな力の行使だったのだが。 そして厳重に保護された外務省の機密情報の資料にも、眞の力に関する記述があった。彼が父親と共に南米コスタリカで生活をしていたとき、ゲリラに襲撃された事件があった。公式にはそのゲリラは観察旅行の招待客である資産家たちを狙った拉致事件だとされているが、その実行犯のゲリラたちは逃げ出した痕跡もなく一人を残して全員が行方不明となり、残る一人は銃弾が十分に装填された拳銃を片手に、眉間を至近距離で打ち抜かれて死体となっていた。手足は完全に自由なままで、なぜ、抵抗せずに殺害されたのかは不明だった。 そのあまりに不可解な事件のため、当局は事件を公表することなく、矛盾しないだけの情報を繋ぎ合わせて簡単な発表だけを行ったのである。 だが、日米の当局にはその詳細な情報が報告されていた。 智子はその資料を見たのだ。 眞ほど凄まじい能力ではないが、智子とてハッカーの世界ではベテランさえも一目置く実力を持っている。だからこそ、このコスタリカの共産ゲリラ襲撃事件の真相にたどり着いたのだ。 一度、亮から聞かされた言葉がある。 『SSIVVAもナイト・フレームも、あれは眞の力を、戦闘能力を増幅するためのものなんかじゃない。あれは、あいつに本当の力を発揮させないための、発揮させなくてもよくするための安全装置なんだ・・・』 その言葉の意味を智子は初めて理解できた気がした。 眞の持つ余りにも恐るべき力。 それを発動せずとも、強大な敵を撃退するに十分な戦力として、SSIVVAやナイト・フレームは存在していたのだろう。 精霊の王が顕現するまでは。 しかし、ナイト・フレームでさえ対応できない敵が現れた以上、眞はその真の力を使わざるを得ない状況に追い込まれていた。 突然、フレイアが警告を発動する。 【眞様の近くに新しい幽星紋を検出しました!】 だが、流石に眞と自然の守護神の放つ途轍もない力の干渉が強すぎて、映像化することはできない。 ワイヤーフレームのようなグラフィックスに点で表示することが精一杯だった。 精霊王を示す大きなオレンジ色の点に、眞を表す青い点、そのすぐ傍に小さな緑色の点が見える。だが、拡大しようとしても、その存在を示す以上のパターンがどうしても得られなかった。 【どういう事だ? そのアストラル・パターンは誰のものだ!?】 英二が驚いてフレイアに確認をうながす。 まさか、あの途轍もない力のぶつかり合う場所に誰かが現れ、存在し続けていられるなど信じることが出来なかった。流石のSSIVVAでも第四階梯以上のレベルで稼動していなければ、あの力の奔流に耐えられる障壁を張ることはできない。 【未確認のパターンです。人間のものと酷似していますが、エネルギーレベルが違います!】 【何だと・・・!?】 そのフレイアの示したデータは通常のものとかけ離れていた。 確かに人間の持つアストラル・パターンに似ている。だが、エネルギーレベルが人間のそれよりも高いレベルだった。だが、存在自体の持つ熱量が低い。エネルギーレベルに比べて熱量が低い、ということはその存在が実体を持っていない存在であることを示している。 【まさか・・・】 亮の言葉を打ち消すように、眞のぞっとするような怒りの声が響いていた。 『・・・てめぇ、エスを巻き込もうとしやがって・・・もうキレたぜ・・・後の事なんざ知るか・・・』 エス・・・まさか、あのエスペランサのことか! 亮と英二の心に恐怖が巻き起こった。 俺は・・・もし、エスを取り戻すことが出来るなら・・・神でさえ殺す・・・ 絶望と苦しみの中で漏らした眞の言葉が亮の心の中に浮かび上がる。 その瞬間、フレイアが悲鳴にも似た警告を発していた。 【ま、眞様のエネルギーレベルが増幅していきます! マ、マグニチュード12.79です!】 D.E.L.に接続を持っている全員が恐怖の表情で眞の放つ黄金の輝きを見つめる。その輝きがどんどんと膨れ上がり、炎の王を飲み込んでいった。 【やばい! フレイア、結界を張れ! 全力だ!!!】 マグニチュードとは、ファールヴァルト軍で採用している、あらゆる存在に対するその魔法的な質量の単位である。通常、導師級の古代語魔法の使い手であればマグニチュードは0.25~0.3程であり、奥義を極めた魔法使いでさえ1.7程度だ。それが、マグニチュード12.79など、想像を絶する魔法質量を解き放った事を意味していた。 【SSIVVAの最大稼動レベルでさえ、あんなマグニチュードを生み出せないってのによ・・・】 野郎、マジ切れしやがった。 英二は思わず心の中で舌打ちする。 余りにも強い力の前に、もはやフレイアによる遠隔スキャンは不可能だった。 唐突に眞の声が響く。 【フレイア! 時空相転移開始! MURAMASA発動!】 【了解しました。MURAMASA-SYSTEM、稼動します!】 クリスタルの響きを連想する美しい合成音が眞の声に応えて、そして膨大な魔力が黄金の嵐の中に注ぎ込まれていった。 【シュヴァルツシルト結界発生。ユーグリッド崩壊が始まる迄、あと23秒です!】 【眞、脱出のタイミングを間違わないで!】 智子がすかさずフォローの往信をする。 時空相転移は世界の根源そのものを“熱い小宇宙”に変換し、その世界軸から放逐する、という現象であるために、強力な結界で対象そのものを空間的に隔離してしまわなければ、その“世界そのもの”を吹き飛ばしてしまいかねないほどの崩壊を引き起こす可能性があるのだ。また、世界自体には事故修復のための時空弾性があるため、結界で隔離しなければ時空相転移自体を引き起こすことが出来ない。 【7・・・6・・・5・・・眞様、応答してください! 反応消失!】 カウントダウンを行っていたフレイアが突然、異常事態の発生を告げていた。 【眞、応答して!】 智子が悲鳴のような声で眞に交信を試みる。 亮と英二も事態の異常さに気が付いていた。 【【SSIVVA、レベル3、アクティベート!】】 その凄まじい反動を予測して、対応するために限界まで集中力を高めながら、二人はSSIVVAを第三階梯で稼動させようとした。 稼動可能かどうかを確かめるため、全身を魔法的にスキャンする感覚が一瞬だけ走り抜ける。 次の瞬間、そのスキャンが終了したが、二人のSSIVVAは沈黙したままだった。 やっぱりまだダメなのか・・・ 絶望にも似た感情が亮と英二の心に広がりそうになった瞬間、SSIVVAが銀色の輝きを放ち始めた。 凄まじいまでの圧力とエネルギーが二人の全身を貫く。 【や、やりぃ!】【いっけぇっ!】 意識が飛んでしまわないように心の中で絶叫しながら、二人はその未知の稼動レベルの反動に耐えていた。 そして、展開が終わったSSIVVAを操り、重力を制御して眞の元に全力で飛んでいく。 「り、亮! 英二!」 ランダーが驚愕の声を上げた。まさか、いきなりレベル3でSSIVVAを稼動させるなど、信じられなかった。 空中に舞い上がった二人は、素晴らしい速さで眞と精霊王が戦う戦場に近づいていく。 だが、二人が近づく前に眞の放つ黄金の輝きが不意に消えうせた。 「「眞!」」 亮と英二はSSIVVAの全センサーを操って、眞を見つけようとする。最悪、眞は全力で稼動したSSIVVAの反動で意識を失っているかもしれなかった。 だが、その二人にフレイアの声が届く。 【亮様、英二様・・・眞様の反応が消失しました。それと、眞様が戦っておられた場所の一帯は時空の歪みが発生しています。あと148時間は近づくのは危険です】 フレイアの声が冷たく響いた。 その合成された声音が、却って圧倒的な現実感を思い知らせてくる。 【な・・・んだと・・・】 亮も英二も、その絶望的な事実に言葉を失ってしまった。あの凄まじい力の行使に、眞の実体自身が耐えられなかったのだろうか・・・ 【そ・・・んな・・・】 智子の声が遥か彼方から響いてくるように感じられる。 その衝撃的な事実は眞の館で待つ悦子や葉子、ユーフェミア達にも伝えられていた。そもそも、D.E.L.を用いていれば情報はリアルタイムに共有が可能なのだ。 だが、この驚異的な情報網を構築し、そして魔法と科学を融合することで人類の歴史に新しい時代を齎そうとした少年は、その未来を見ることなく消滅してしまった・・・ SSIVVAの力で宙に浮かぶ少年たちも、自分の無力さに絶望していた。 俺たちにもう少しだけ力があったら、あいつをむざむざ死なせずに済んだのに・・・ いつか元の世界に戻る方法を考えて、そして思いっきり馬鹿騒ぎをしよう、そんな他愛もない願いはあっけなく失われてしまった。 絶望に満ちた沈黙がD.E.L.のネットワークを支配していた。 不意にD.E.L.に繋がっていた全員に聞いたことのない声が響く。 【案ずる事は無い・・・彼の魔法戦士・・・死んではおらぬ・・・】 しわ枯れた老人のような男の声。 どこか人間のものでは無い、圧倒的な存在感を伴っていた。 ランダーは、そして配下の騎士達は眞が消滅したことで激しい衝撃を受けていた。そして、不意に従軍していたルーシディティがいきなり、身体を硬直させたと思った次の瞬間、彼女の口から不気味な老人の声が紡ぎ出されていたのだ。 「マドカが死んでいない、と・・・?」 『然り・・・真実の子は未だ在る・・・だがこの世界にはあらぬ・・・』 ルーシディティは恍惚とした表情で焦点の合わない視線を空中に向けている。だが、正気を失っている様子ではなかった。 【な・・・】 【じゃあ、何処にいるんだ!】 亮と英二が苛立ったような声で声の主に疑問をぶつける。 声は気にした様子もなく淡々と言葉を返した。 『この念話を司る・・・人に在らざる女に聞くがよい・・・女・・・汝の目・・・耳を・・・彼方へと向けよ・・・真実の子の力・・・汝なら感じることが出来よう・・・』 フレイアはその言葉を聞くと同時にそのセンサーをフォーセリア以外の彼女が認識できる全ての世界に向けて走査を開始していた。 そして次の瞬間、フレイアは驚いたような声で報告を返す。 【眞様のSSIVVAの信号を検出しました!】 【何!】 【ほ、本当なの!?】 英二と智子が殆ど同時にフレイアに問い返していた。もし、眞が生きているなら、すぐに救出隊を派遣しなければならない。 【はい・・・。ですが、眞様はこのフォーセリアにはおられません。辛うじて信号を受信しましたが、相当遠い“世界”から発信されています。量子のノイズの中から、辛うじて信号を受信できる瞬間がありますが、極めて断片的で、場所と距離の特定が困難です】 そのフレイアの言葉は全員の心に別の衝撃を齎していた。 それは、このフォーセリアともユーミーリアとも違う別の世界に眞が飛ばされたという事を意味している。そして、今の彼らにそれほど離れた世界に救助の手を伸ばすことは不可能だった。 だが、それを教えたこの『声』の主は、その事実を彼らよりも早く知っていた。 全員の心に疑問が湧きあがる。 その心を感じたのか、『声』が答えを返した。 『・・・真実の子が・・・別な世界に飛ばされること・・・我は知っておる・・・我が名はアルケナ・・・運命の告知者・・・』 暗い闇を切り裂いて松明の炎が辺りを照らし出していた。 そのひんやりとした空気はもう数百年以上もの歳月の間、人の侵入を許さずにいたこの遺跡の威厳さえも感じさせる。 この神殿を記した書物は、実のところ巧妙に隠された魔術の儀式を記した魔術書であり、古代王国の時代に人々が神々の威光を忘れた事を嘆いた偉大なる魔術師にして敬虔なる司祭であった貴族が記した、この月光の神殿に関する秘密の奥義書だったのだ。 その秘密に気が付いたファリスの敬虔な信者であるアノスの宮廷魔術師が至高神の復活とその威光の啓蒙を願う光の真理の一派に協力を申し出てきたのである。 だが・・・ 「あの汚らわしい獣人どもも役に立ちましたな」 純白の神官衣に身を包んだ男が満足げに呟く。その胸元には至高神の聖印が輝いていた。 確かに正当な取引であり、かつ虚言を弄して騙した訳ではないのだが、獣の力を魔法の宝物で身に付けた獣人と取引をするのは如何にも汚らわしいと思えたのだ。 しかし、その甲斐もあって神の復活に相応しい器も手に入れることができた。 そう思いながら、壮年の男は深い眠りに落ちている若い巨人を見上げる。その人の数倍を誇る威容の巨人は、さながら神の末裔と思えるほどだ。 (だが、所詮は巨人。お前達は神ではない。なのに、偉大なる神々がその御姿に似せて御創りになられた我等人間と同じ姿を持つとは・・・) 神話の中にも巨人について記されたものはない。 その事について今でも神学者達は様々な論を述べているのだが、未だに全ての問題と矛盾を解き明かすことには成功していないのだ。 だが、それでもその事は問題ではない。 今は偉大なる至高神の器に相応しい存在としての価値だけがこの巨人にはある。 この眠る神殿の偉大なる魔力を用いて、彼らは自らの信仰を捧げる神を巨人の肉体を以って蘇らせる事を願っていた。 矮小な人間が何を考えているのか、魔法の眠りに落ちている巨人も、そして魂だけの存在となって世界に散華した神々も、今は知る由もなかった。 |