エピローグ

 少女はぼんやりと夕暮れ時の公園を横切って歩いていた。
 期末試験が終わって、やっと夏休みを迎えることができるのだ。クラスの友達はもう夏休みの予定について話し始めていた。
 だが、少女は自分の予定のことを考えると少しだけ落ち込んでしまう。
 みんな東京から離れて遊びに行く計画があるのに、彼女だけはそんな予定がない。

 仕方がないわ・・・。だって、お母さん、いつも病院勤めだし・・・

 そんな事を考えて、自分に言い訳をしている自分にかすかな嫌悪感を抱いてしまう。
 清楚なデザインのセーラー服に包まれたしなやかな肢体だったが、少し翳りのある表情が少女の印象を年齢以上に大人びて見せてしまっていた。
 
・・・ジジジ・・・ジジ・・・
 
 不意に不思議なノイズが聞こえ始めていた。
 何の音だろう?
 少女はその音に気が付いて、慌ててきょろきょろと周囲を見回す。しかし、そんな音を立てるようなものは一切無い。
 古い映画に出てくる蛍光灯、というものが立てる音のような感じだ。公園を照らすライトはもう十年以上も前にLED(発光ダイオード)のそれに切り替えられていて、蛍光灯というものを見たのは科学博物館に展示してあったサンプルくらいのものだ。
 それに、危険な何かが近づいているというわけではないようだ。もし、セキュリティ・システムが人間がいる場所に危険を感知したら、直ちに警報が発せられると同時にガーディアン・ユニットが飛び出してくる。
 だが、少女は知らなかった。
 この世界の“科学”に拠らない存在は、流石のセキュリティ・システムも判断の対象外になってしまう事を。
 いつの間にか青白い光の粒が周囲に舞っていた。
「な、何なの・・・これは・・・一体・・・」
 それは最初、不規則にばらばらな動きを見せていたが、徐々にある一定のリズムで規則正しく明暗を繰り返しながら渦を描くように動いていく。徐々にその渦巻く速さが高まり、光が激しく明滅し始めた。
 そしてその動きが最高潮に高まったとき、一瞬、光が一点に集中し、爆発的な輝きを放った。
「きゃっ!」
 慌てて鞄で顔をガードする。
 だが、その輝きはかすかな温かさと優しく包み込むようなエネルギーを放ちながら消えてしまう。
 恐る恐る鞄を下ろした少女の目が驚愕に見開かれた。
 光の爆発したその後には、銀色の鎧のようなものを身に纏った少年が倒れていたのだ。
 その少年の手には何故か、不思議な文字が金文字で刻まれた捩くれた杖が握られていた。
 
 
 

-エピソード3・完-

 
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