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聖王都ファーズの王城ホーリーハンマーの一角にはファリスを奉じる礼拝場がある。
他国の王城には見られない独特の建築として、聖王国の王城はその名を知られていた。 ホーリーハンマーの名は、ファリスを象徴する聖なる権威を表すものとして、そして“戦槌”という武器は、正義を貫きながらも、刃持たぬ神聖なる武器としての象徴であるといわれている。 その尖塔の頂上にはファリスを象徴する光の十字が掲げられ、この王国がファリスの権威の下に統治されている事を知らせているかのようだった。 他国の王城と違い、何処かファリス神殿の礼拝堂を思わせる宗教的威厳を色濃く映し出す独特の建築様式は、しかし、それでもその堅牢さはアレクラスト大陸有数の城としても有名だった。 その礼拝堂で一人の騎士がファリスへの祈りを捧げていた。 聖騎士シオン・ラフィエットである。 シオンは王都ファーズに広がりつつある不穏な空気に不吉な予感を隠し切れなかった。 一時は勢力を押さえ込まれた光の真理一派が、再びその活動を活発化させているという噂が耳に入ってきたのである。 彼らの極めて排他的、そして妥協を拒む原理的な行動はシオン達中道派のファリス教徒を不安にさせていた。それ以上に、彼ら光の真理一派に対しては教団上層部などの、いわば神殿以外の世界を知らない者達によって密かに支持されてきた、という経緯もある。 それがファールヴァルト王国の台頭などにより問題が一気に噴出してきたのだ。 ファールヴァルト王国はその高度な魔法技術によって独自の発展を遂げようとしている。それが光の真理一派にとっては受け入れ難いことであったのだ。 特に彼らは魔法による創造物を嫌う。 もともと、ファリスをはじめとする光の神々の教義では不死生物や魔法生物は不浄なものとして忌避されている。だが、光の真理一派はそれを魔法の存在全てにまで解釈しているのだ。つまり、魔法生物が不浄なものであるなら、それを生み出すことの出来る魔術もまた不浄であり、それを操るものはファリスの定める正義に反する邪悪なる存在である、と。 その教義の解釈が彼ら自身の定める教義以外のものを偽り、邪悪であるとし、そして排除するという極端な行動に駆り立てているのだ。 その結果として僅か一年前にはその主張に共感した千二百騎もの聖騎士がファールヴァルト王国討伐に出陣し、そして大敗を喫するという無残な結果に終わったのである。そして、その結果に対して苛立ちと再戦を願っているのは容易に想像できた。 法王レファルドIV世は慎重に対処をしてはいるが、その光の真理一派は徐々にその勢力を増し、近い将来に大きな問題になることが容易に推測されたのである。 そのことに心を痛めたシオンは、敬虔なファリス信者として当然のようにファリスへの祈りを捧げていた。 ステンド・グラスの美しい色彩が祈りの間を彩っている。 その複雑な色彩は、ファリス神の言葉を色とデザインで現したものだと考えられていた。 美しい輝きに照らされたシオンが深い祈りを捧げている間、その使者はじっと待っていた。そのことに気が付いていたシオンではあったが、しかし、その使者の様子が危急の雰囲気を伴っていなかったことから祈りを続けていた。 それでも長く待たせる事は失礼に当たると考え、手早く結びの言葉を唱えて祈りを終える。 そして、その使者に向かって一礼をした。 「私に何か、御用でしょうか?」 「はい。聖騎士シオン卿に法王陛下からの伝言をお預かりしております」 男の言葉にシオンは内心で驚いていた。 法王陛下からの直々の伝言とは、一体何のことなのだろうか。 「法王陛下からの直言、ですか?」 その言葉に使者は重々しく頷き、僅かに声音を落とした。 「その通りです。シオン卿に大至急、ファールヴァルト王国へと向かってもらいたい、との事です」 「ファールヴァルトへ?」 「はい。ファールヴァルト王国との国境付近に巨人が現れた、との知らせがあったのです」 「巨人?」 その言葉にシオンは驚いていた。 巨人-未だ、賢者達でさえ彼らの実態を知るものは少ない、謎の一族である。 妖精族や妖魔等の中にも巨大な身体を持つ巨人と呼ばれるものもいるが、その名の通り、ジャイアントとよばれる存在はそれとは全く異なる存在であるとされていた。 文字通り巨大な人間の姿をしていることから、一説には神々の眷属である、とも神々こそが巨人の中で最も優れた存在だったのだ、と言われることさえある。そもそも、世界創造の神話によると神々とは巨大な人間の姿をしていたという。いや、正しくは人間こそが神々によって、その御姿を写されて創造されたのだと言われていた。ならば、同じように人と同じ姿をし、そして巨大な体躯を誇る巨人とは一体何なのだろうか。 ドゥーデント半島というアレクラスト大陸の南西にある半島は巨人の支配する大地だとされている。そして、かのロマール軍が侵攻を企てて、そして結果としてその計画が失敗に終わったことからも、その巨人達の底知れない力を窺い知ることができた。 それほどの強大な力を誇る巨人族が神々の最終戦争において何の力も持たなかったとは考えにくい。神殺しの竜に次いで、巨人族の戦士達は強大な戦力だったはずだ。 そのような巨人の存在が神話に語られていないというのも不可解である。 それが故に一部の賢者達が、神々こそが巨人達の中で、最も優れた、そして強大な存在だったのだ、と考える要因にもなっているのだ。もし、神々こそが巨人の中で最も優れた存在であり、巨人達が神々と同属であるならば、神話の中で巨人と神々を区別する必要など無い、との理由である。 もちろん、シオン自身はその真実は知らなかったし、巨人が自分の信じるファリス神をはじめとする神々と同属であるとも信じることが出来なかった。 「そうです。人の身長の数倍を超える巨人がミード湖のほとり、ファールヴァルトとの国境付近に現れたのです。シオン卿はファールヴァルト王国の鋼の将軍殿とも親交があるとのことで、彼の王国と連携、もしくは対応が必要になったときに卿に尽力を頼みたい、とのことです」 確かに巨人と対するには魔法の力は必須であり、また、そのような騎士団同士の戦い以外にそれなりの実戦経験を積んでいる騎士は決して多くない。ファールヴァルト王国との連携を考えた場合、シオン以外にかの魔法王国を良く知る騎士はいないだろう。 「わかりました。それではすぐに準備を整えましょう」 「お願いいたします。宮廷に御出廷願う日時に関しては追ってご連絡いたします」 「お世話をおかけします」 そして恭しく一礼し、使者は礼拝堂を後にした。 その後姿にシオンはこの巨人騒動が単なる一地方の問題でなく、もっと重大な問題に発展する不吉な臭いを感じ取っていたのである。 同じ頃、眞も巨人出現の知らせを受けて対応策を練っていた。 通話の魔法や様々な魔法技術の行使により、ファールヴァルト国内の情報に関しては非常に正確に、かつ迅速に把握が出来るのだ。 それは人の数倍の体躯、およそ身長が5メートルほどの巨人だった。 外見からヒル・ジャイアントだと考えられたが、その巨人がおよそ十名ほど、妖魔の森の外れに出没したのだ。だが、普通、ヒル・ジャイアントは丘や丘陵地帯に住む巨人であり、森には生息しないはずだった。そのため、何らかの事情が考えられると、眞は自らが接触を持つ事を国王ウェイルズに申し出、飛んできたのである。 クープレイやヴァンディールを駆ってきたのでは巨人を刺激する危険がある、との考慮から己の 「で、その巨人達は何をしてるんだ?」 眞の問いに、国境警備の騎士達と魔術師をはじめとする駐留部隊は苦笑しながら答えていた。 「何もしていませんよ。普通に火を起こして、座り込んで話をしています」 「なんだそりゃ・・・」 まさか、巨人がそろって旅行するわけでもないだろうに、と眞は少し呆れていた。 魔術師のフィオスと巨人の言葉を理解できる騎士が数人、簡単に話しをしたところ、巨人達に害意は無く、また、住む場所を離れて移動してきたのだ、との事だった。 そもそも、ファールヴァルト領内には巨人が少なくない数で住んでいる。眞自身、凶暴な森の巨人を倒したこともあるほどだ。 だが、ヒル・ジャイアントは性格も穏やかで人と争うことも殆ど無いとされている。 「で、何で住む場所を離れる羽目になったんだ?」 「はい。それが・・・」 フィオスの語った内容は衝撃的な内容だった。 そもそも、彼らは本来はもっと東のマハティール山脈の東側に住んでいた集団だった。それが、住む場所を失ってしまったのだという。 「おいおい、巨人の集団を追い払うような事って、何だよ?」 呆れながらも、眞はその可能性を頭の中にリストアップし始めた。
あまり考えたくない事態だった。 だが、いずれにしても推測の域を出ない。実際に巨人と会って話をするのがやはり、最も確実だろう。そう考えて、眞は巨人との話し合いをするために出向くことにしていた。 「また厄介ごとに首を突っ込むわねー」 智子の呆れたような声に眞はひょい、と肩をすくめて笑うしかなかった。 「まあ、厄介事を背負い込むのは慣れてるからな」 そもそも、眞はその巨人達と戦いになるとは考えていない。もっとも後には、さらに厄介な存在と戦いになるかもしれないが、それは後で考えればよいことだ。 広がった丘陵地帯に、眞を中心としたファールヴァルト王国の騎士達はゆっくりと向かっていった。 夕暮れの薄暗い光景の中、眞たちは焚き火を囲んで巨人達と話しをしていた。 それは神話の時代に逆戻りしたかのような幻想的な光景だった。 彼らは当初、予想されていたヒル・ジャイアントではなく、古代種の巨人の末裔であることだった。姿形はヒル・ジャイアントとは殆ど違いが無いのだが、彼らは強大な古代語の魔法を操り、そして高い知性を持った強大な存在だったのだ。そして驚くべきことに彼らの中には女の巨人や、二人の子供の巨人も居たのだ。 キャンプ・ファイアー程もある大きな焚き火の周りに十人の巨人が悠然と座り込み、そして もし、そこに吟遊詩人や芸術家が居たならば、彼らは自分の命と引き換えにしてでもその幻想的で神秘的な光景を自らの作品にしたかっただろう。 「我らは長い年月、住み慣れていた地を捨てざるを得なかったのだ・・・」 長らしき巨人が苦悩の色をにじませた声音でゆっくりと語った。 それは彼ら巨人達にとって辛く、苦しい決断だっただろう。 発端は、ムディール戦役の際に滅んだ王国から逃げ出した民衆達が彼らの住む草原地帯に移り住んできたことだった。 最初はその人数も少なかったこともあり、巨人達は哀れな人間達に深く同情してその草原に住む事を許したのだ。しかし、その後、ムディールから新しい統治者に対する不安を感じていた者達が続々とその新しい地に流入し、最終的には巨人達の住む場所にまで開墾の手を伸ばさざるを得ないほどの人口となってしまったのである。 だが、心優しき巨人達は人と争う事を願わず、そして自らの住んでいた地を捨て、新たな安住の地を探す放浪のたびに出る事を望んだのだ。 「我らは人と争う事を望まぬ・・・。それは古き時代からの誓い故に・・・」 眞にはその心優しき巨人の苦しみが理解できた。それと同時に、自身がその原因を作る一端となった事を苦い思いで実感していた。そして、自らが放浪の身になろうとしても人と争わない、という誓いを護ろうとする巨人に深い感謝と共感を覚えていたのだ。 「ならば心優しき巨人よ・・・私が貴方達に安住の場を提供できないだろうか?」 眞は、いわばムディール戦役の被害者とも言える巨人達に、安住の場を提供したい、と考えていた。その根本的な原因はムディール王国の国王にあるとはいえ、ファールヴァルト王国がムディールを滅ぼさなければ巨人達が住居を捨てることにもならなかったのだ。 その事を告げ、眞は巨人達に自らの領地の中にある広い丘陵地帯に彼らを招き入れる事を申し出ていた。 「汝の申し出、心から感謝する・・・。だが、願わくば我等は人と関わり無く暮らせる事を望んでいるのだ・・・」 巨人のその思いは理解できた。 神々の最終戦争が終わって後、世界に残されたのは生き残った者達同士による激しい勢力争いだったのだ。 そして、その数千年を超える激しい混乱と対立の中である種族は滅ぼされ、そしてある種族は他の種族との交わりを断って孤立化する道を選んだ。 長い年月、その争いを見ながら巨人達は何を想って今まで生きてきたのだろうか。心優しき巨人達はその争いを避けるために、他の種族との交わりを避けようとしているように思えた。 だが、この世界はもはや過去のフォーセリア世界ではない。 ある意味ではこの世界は人間の世界となりつつあり、そして妖魔や魔獣たちも次々に駆逐されつつあるのだ。 だから、眞は巨人達が安心して生活できる場を見つけられる事を願ってやまなかった。 「ならば巨人よ・・・もし、汝らの旅の果てに安住の場を見出せなかったなら、我等が王国へ来るが良い・・・。我が名を以って、汝らに安住の地を与える事を約束しよう・・・。汝ら心優しき巨人が人を傷つけずに、汝らの地を分け与えてくれたことに対する、私からの礼と感謝だ・・・」 「・・・その申し出、感謝する・・・。もし、我等が安住の場を得られなかったならば、ありがたくその申し出を受けることにしようぞ・・・」 眞の申し出に対して巨人は少しだけ考え、そして深い感謝の心を込めて礼を返してきた。 そして、眞はそっと微笑んで巨人に自分の名を告げた。 「私の名前だ。マドカ、と言う。“ その瞬間、巨人の目が一瞬、見開かれた。 「・・・汝の名は、“真実”というのか・・・何という事だ・・・」 巨人のその言葉に眞は疑問を覚えた。 ヴァンディールといい、古の魔女メレムアレナーといい、彼の事を何故かよく知っているようだった。だが、その内容に関しては何度尋ねても言葉を濁して答えてはくれなかったのだ。 「・・・我が名は“ 眞は巨人が自らの名を教えてくれたことに驚き、そしてそれが巨人の感謝の意味を込めての最上級の礼だと言うことに気が付いていた。 「“大地を護る剣”よ・・・旅を続けるならば我等が大地の中に於いては汝等に危害を加える事を禁じるように取り計らおう・・・。だが、我等が王国を離れるときには細心の注意を図られよ・・・。汝等が巨人である、との理由だけで戦を仕掛けるものも居ないとは限らぬ故・・・」 眞はファールヴァルト王国内での巨人達の安全を約束し、そして彼らの旅の幸運を願っていた。 「汝の心遣い、心より感謝する・・・」 心優しき巨人は眞に挨拶を返した。 そして、その後は和やかに語らいながら素朴な宴となっていった。 美しく豪華な調度品が並ぶ部屋で、男はじっと考えに耽っていた。 その彼を見る数人の男達の眼差しも不安と苛立ちを湛えている。 暫くの沈黙の後、男はやっと口を開いた。 「このままでは、我々は今の立場も力も失うことになる。いや、それだけではない、この国を追われ、そして反逆者として処分されかねない」 歯軋りするような声音で壮年の男が呟きを漏らした。 ロマールの国名と同名の王都にある貴族の館には数名の男達が集まっていた。まだ、反乱などの動きと怪しまれない人数である。 彼らは、いわゆる新貴族の青年達だった。 領土拡張戦争を望むことが厳しくなってきたことと、圧倒的なカリスマでロマール王国を束ねてきた国王アスナー二世が病に伏せ、もはや回復の見込みが無いことなどが、圧倒的な権力基盤を誇る大貴族派の勢いを加速させていたのだ。 そして、それ以外にも軍師ルキアルのこともあった。 稀代の天才軍略家であり“指し手”の異名を持つほどの男ではあるが、それでも彼は生身の人間である。五十二歳、という彼の年齢はアレクラスト大陸における平均寿命を超えている。彼がいつ、その寿命を迎えるのか誰も知らないとはいえ、おそらくあと何十年も生きる、とは彼自身も考えていないだろう。 そして、ルキアルが第一線で働ける時間は更に限られている。 そうなった場合、新貴族派は存亡の危機を迎えることになりかねない。いや、それ以上に圧倒的な権力とカリスマを誇るアスナー二世が崩御した後は、大貴族達は新貴族派やルキアルのような外部からの重用者を排除する動きに出るだろう。 男が慎重に、しかし、重い決意を込めたように口にした。 「・・・その前に我々は、我々の立場を固める必要がある」 その言葉の裏に隠された意味に気付き、もう一人の男が息を呑んだ。 「反乱ではない。我々に対する奴等の理不尽な行動に揺るがされない基盤を築き上げる、という意味だ・・・」 ある意味ではロマール王国は第二次世界大戦以前の大日本帝国に似ていた。 政治の実権を握る貴族達と実際の軍事力を握る軍部との乖離と対立である。 前者には圧倒的に大貴族が力を持ち、そして現実の軍には逆に新しく取り立てられた新貴族が強い力を持っている。 今まではその対立も圧倒的なカリスマを誇るアスナー二世の下で最小限に抑えられ、そして表面化することも無かった。しかし、アスナー二世が病に倒れ、次期国王の問題が現実的な問題となって来た昨今では、その二つの勢力の対立は次第にロマール王国の基盤さえも揺るがしかねない国内問題となってきたのである。 現実的な問題として、軍を動かすには金が要る。 そしてその金は政府によって各部署に支給されることで軍やそれぞれの部署は運営が行われる。ルキアルの目標の一つに新貴族が自由に使える確固たる資金源の確保もあった。 そもそも、大貴族の息の掛かった官僚たちがサボタージュを行えば、新貴族達の勢力が日干しにされる危険さえあるのだ。 今までは領土拡張戦争に備えて、そのような事は辛うじて回避されてきたが、領土拡張戦争がもはや望めない近年では、体制再編を口実に巧妙な切り崩し工作が図られる事は想像に難くなかった。 そのこともあって、ルキアルを始めとして新貴族の謀略に長けている者たちが中心となってロマール商人達を懐柔し、己の側に取り込む工作を進めていたのだ。 だが、流石に大貴族も無能ではない。 新貴族達の行動を察知し、謀反の疑いがあるとして討伐する準備を進め始めた、との情報が齎されたのだ。 自らの存亡をかけて、新貴族達は行動を起こさざるを得ない状況に追い込まれつつあった。 そして、それと時を同じくして、大貴族達も厳しい表情で極秘の会談を持っていた。 「だが、奴等新貴族達は現実問題として数と武力に勝っておる・・・」 「左様。不用意に刺激すれば何を仕出かすか判らん。所詮は成り上がり者の集団だ」 「しかし、それとてアロンド殿下の覚えも良く、迂闊に手を出すと我等にも火の粉が降りかかる」 贅沢な装飾に彩られた応接間のような部屋で、大貴族の男達が危険な色を帯びた話題を熱心に語っていた。 現実問題として反乱を起こされた場合、大貴族側は不利だった。新貴族達は政治的な権力基盤こそ弱いものの、実際の軍部の大半を占めている。現実問題として騎士団のおよそ四分の三が新貴族に属する騎士達なのだ。もちろん、上級騎士や近衛騎士隊は多くを大貴族が占めている。しかし、その中でさえ例えばシフォン子爵などのように中立、もしくは新貴族に対して好意的な意識を持っている騎士は少なくない。 特に現実の戦場を知っている騎士達はむしろ、お互いの連帯感が強い傾向がある。そしてそのような騎士達は実際の戦場に立った場合、最も有力に働くことが出来る人材達だ。 その彼らが一気に反旗を翻した場合、如何に権力を握っているとはいえ、大貴族達は如何にも不利だった。 その数の不利を一気に覆す必要があるのだ。 先の西部諸国征服戦争は失敗にこそ終わったものの、貴重な情報や経験を得ることが出来た。その意味では先走った新貴族達と彼らに煽て上げられて間抜けな芝居を演じさせられたアロンド第二王子には感謝をしても良い。 全ての失敗の責任を彼ら新貴族に負ってもらい、そして貴重な情報を入手し、そして実際の戦力もすり減らせたのだ。 ここが成り上がり者と伝統的な政治を知る者の違いなのだ、と彼ら大貴族達はほくそえんでいた。 第一にドレックノールが魔獣創造の秘術を復活させ、そして実戦投入できる状況にあること、そして第二にそれを量産して実戦に投入することが可能であること、である。 そもそも、国力が圧倒的に劣る西部諸国の、それも所詮は盗賊都市に過ぎないドレックノールが魔獣創造の秘術を復活させ、そしてそれを実戦に投入することが出来たのだ。圧倒的な資本力と権力基盤、人材を誇るロマール王国の大貴族が出来ない訳が無い。 西部諸国征服戦争の終結直後から彼ら大貴族達はロマール王国における魔獣兵器の開発と運用を研究していた。そして、危険な研究をしたとして魔術を封じられて追放された魔術師達や魔術師ギルドの中でも右派の人材を次々にスカウトし、そして極秘裏に研究を進めさせていたのだ。 特に魔術師ギルドを追放された魔術師達は、再び魔術を使い、そして自分の思う様研究をすることが出来る、そして食うものにも困らない生活からも救われる、とあって、二つ返事でその申し出を受けていた。 その動きを魔術師ギルドは苦々しく思いながらも国の中枢を占める貴族達の動きには干渉することが出来なかった。下手な事をして国を敵に回した場合、彼らの存在に関わる問題になりかねかったのだ。 |