~ 2 ~

 真夜中を過ぎていたが、続々と王城に人が集まっていた。
 その行く先は、王城の地下にあるファールヴァルト軍の総合司令部である。
 騎士達や文官たちが慌しく駆け廻っていた。
 その中を、眞達は急いで各員と連絡を取り合っている。モニタ・パネルに映し出された様々な情報を詳細に分析し、対策を練るためにお互いの情報と考えを交換し合っていた。
「ロマールの動きはどうなっているか?」
「まだ、具体的な動きは見えていません!」
「ファンドリア軍は動いているのか?」
「騎士団が集まり始めています!」
「オーファンは?」
「ラヴェルナ師と回線が結ばれています。A-221チャンネルです!」
「こちらへ回せ!」
 怒涛のような勢いで時代が流れ始めているのを、その場にいる人間は痛感させられていただろう。
 大陸の各地で、突如として不穏な火種が巻き起こっていたのだ。
 一つ目は、ファンドリアの動きである。
 突如としてファンドリアの騎士団が大挙してオーファンとの国境に展開し始めたのだ。
 そして、あからさまな挑発をしていた。
 他にも、ミラルゴではリザードマン達が味方につけたウォータードラゴンと供に、ミラルゴに侵攻を始めたのである。
 これらの事が、大陸の各地に燻っていた炎を燃え上がらせ始めていた。
 オーファンは大陸の各国と軍事同盟を結んでいる大国である。
 だが、ファンドリアとの戦争を開始すれば、その睨みは行き届かなくなる。その為にロマールや他の野心的な国は安心して隣国への戦争を行えるようになるのだ。
 特に、ロマールは先程行われたベルダインへの侵略戦争は、国力が二十分の一という小国を相手に引き分け、という屈辱的な結果に終わっている。このまま、あの軍事大国が不本意な結果に甘んじている理由は無かった。
 その為、ファンドリアがオーファンとぶつかり合ってくれれば、逆に後ろ盾の無くなった小国など、遠慮無く攻められるだろう。
 ベルダインも、西部諸国もあのロマール戦役にほぼ全戦力を継ぎこんで、消耗しきっている。
 今度こそ敗北は必至という状況だ。
 唯一の懸念は、ファールヴァルトの空軍戦力である。
 地理的障害を超えて派遣できるファールヴァルト空軍を牽制する為に、おそらくはミラルゴの騒乱を引き起こしたのかもしれない。
 そうすれば、物量に劣るファールヴァルトは他国に軍を派遣する余裕は無くなる。
 アノス軍は先日の紛争行為で、他国からは信頼を失っている。
 そして、オラン軍は地理的な問題で中原地域に戦力を派遣できないのだ。
 エレミアは、元々武器を輸出して交易をしている国だ。
 戦争が行われれば、それだけ彼の国の商品が売れることになる。あえて手を出す理由が無いだろう。
 ラムリアースは、恐らく自分達からは戦争に参加できない。
 魔法を操る国である以上、その恐怖を撒き散らす行為は行えないはずだ。
 そして、他国と戦をしない、という伝統が更に足枷になってしまっている。
「最悪の状況だな・・・」
 眞の呟きは、おそらく誰にとっても同じだっただろう。
「このような形で、我々の弱点を突いて来るとは・・・」
 その、眞の指摘はあまりにも正確だった。
 強力な部隊である幻像騎士団や嵐竜ヴァンディールは、あくまでも強力な“攻撃力”を持っているに過ぎない。数に劣るファールヴァルト軍は、防御力に劣ると言わざるを得ないのだ。
 圧倒的な攻撃力を持った極少数の部隊は、確かに攻撃に関しては絶大な意味を持つ。
 しかし、防衛にはある程度の数が必要なのだ。
 そこがファールヴァルト軍の弱点である。
 そして、唯でさえ少ない防衛力を、ロドーリル方面とムディール方面に展開せざるを得ない為、ますます防衛力は脆弱になっていく。
「どうすれば良い?」
 オルフォードが不安そうに尋ねてきた。
「まず、我々には数が足りない事を前提に考えましょう。緊急ですが、アノスに連絡を飛ばし、アノス軍の派遣を要請しましょう」
「アノス軍だと・・・?」
 ファーレンが驚いたように声をあげた。
 かの軍とはつい半年も経っていないときに交戦したばかりなのだ。
 それを指摘されても、眞は気にもしない素振りで答えた。
「はい。その事が逆に保証になります。考えて見てください。彼等はファールヴァルトに侵攻しようとしたのは自分達ではなく、暴走した一部の騎士団だと表明しています。そこで、彼等に名誉挽回の機会を与えて、我が国がそれを依頼するとしたならば、彼等の名誉は回復されます。その上で、彼等の信頼も戻れば、国を防衛しながらアノスの名誉も回復できる、一石二鳥です」
「ははは、この状況を逆手に取る、か。良かろう!」
 笑いながら、ウェイルズ王は眞に答えた。
 その時、オーファンのラヴェルナと連絡を取り合っていた魔法兵団の若者が眞に声をかけてきた。
「鋼の将軍!」
「何だ?」
 眞は、その若者の目に緊張の色が浮かんでいるのを認めた。
 何かが起こったのだろうか。
「ラヴェルナ殿から将軍へ、話があるそうです」
「判った」
 答えながら、通話の護符を受け取る。
「ラヴェルナ殿、眞です」
『お久しぶりですね、将軍』
 久しぶりに話すオーファンの魔女は、しかし、優雅に言葉を紡いできた。
 だが、その声音にどこか張り詰めたものを感じ、眞は気を引き締める。
「お久しぶりです。何か起こったのでしょうか?」
『ファンドリアの動向は、そちらでも掴んでいると思います。問題は、我がオーファンの騎士団が国王の承認を受けずに出撃をしてしまったのです』
 ラヴェルナの話した内容は、あまりにも絶望的な響きを帯びていた。
 皇太子リトラーを擁する「鉄の槍騎士団」の一派が、あろうことか功を焦って独断で出兵してしまったのである。
 この旧モラーナ貴族を中心とした派閥は、皇太子リトラーを次期オーファン国王にする為に、彼に武勲を上げさせようと考えたらしいのだ。
 そして、国王リジャールの承認を得ないまま、独断で出兵してしまったのである。
 こうなれば、国王リジャールがいくら中立を考えていても、周囲がそれを許さない。なし崩し的にオーファンはファンドリアとの戦に突入をせざるを得なくなってしまったのだ。
 その唐突な話で、さすがに眞は衝撃を受けていた。
 言葉が出てこない。
「ま・・・さか・・・」
『その“まさか”、なのです』
 考えうる、最悪の事態だった。
 もし、ファンドリアが挑発を行ってきても、オーファンが無視していれば、ロマールも身動きが取れなかったはずだ。
 しかし、オーファンが動いてしまった以上、もはやそれは期待できない。
「すぐにレイ殿にも連絡を取ります!」
『お願いします』
「とにかく、ルエラと善後策を対応していただけますか?」
 そう言って、返事を聞く間もなく通話の護符をルエラに渡した。
「これでは、アレクラスト大陸全てを巻き込む大戦争になるぞ!」
 ランダーが震える声で呟いた。
「まぁ、そう言う事だな・・・」
 ファーレンも、そう言うしかなかった。
 その視線の先では、眞がレイと通話の護符で話していた。
 間もなく、夜が明けようとしている。
 フォーセリア新王国暦524年の12月25日。
 ユーミーリアでいうならばクリスマスだ。
 そして、その日はアレクラスト大陸を揺るがす、戦乱の時代が幕を開けた日として後の人々に記憶されている。
 
 シオンは、法王レファルドⅣ世に呼ばれて急いで聖王宮に出廷していた。
 真紅の絨緞の上を早足で歩きながら、慌しく走り回る文官達や騎士達とすれ違っていく。
「戦争でも起こるのか?」
 不安を覚えながら、シオンは謁見の間に向かっていった。
 まどろっこしい宮廷儀礼がシオンを苛立たせていく。
 そして、謁見の間に入場したシオンは、その場にいる騎士達が完全武装でいる事に驚き、同時に自分の予感が間違っていなかったことを意識していた。
 もちろん、シオンも完全武装である。
「近衛騎士シオン・ラフィエット、王命により参上いたしました」
 法王に向かって跪き、挨拶をする。
「うむ。面を上げよ」
 シオンはその法王の言葉に従い、顔を上げた。
 そして、近衛騎士隊長の指示に従い、自分の定められた位置へ移動する。
 シオンが定位置についたのを確認し、近衛騎士隊長が言葉を述べ始めた。
「これより、法王陛下の命により宮廷会議を開催する」
 その言葉に、宮廷に集まっている騎士や文官達が緊張したように表情を引き締める。
 最初に、文官の一人から発表された内容は、シオンにとってあまりにも衝撃的な事実だった。
「この大陸の各地で紛争が一斉に勃発し始めたと言う連絡が、ファールヴァルト王国の緒方眞公爵より届けられた」
 その言葉は、アノスの騎士に計り知れない意味を感じさせていた。
「なんと・・・」
「そのような事が・・・」
 ざわめきが広がるのを制し、文官は眞より伝えられた情報を伝えていく。
 その想像を絶する話に、シオンは何処か現実離れした印象を抱かざるを得なかった。
「・・・我が国としては、彼の国から要請された軍事援助を行わざるを得ない」
 法王が厳かに宣言した。
 その声に、騎士達が再びざわめき始める。
 敢えて、自国に武力侵攻した国の騎士団に共同歩調を要請するとは・・・
 だが、シオンはその考えがあの異世界の魔法騎士の考えだろう、と推測していた。
 ファールヴァルト王国にはアノスのファリス修道女達がいる。この夏に勃発した紛争に従軍し、捕らえられた者達だ。
 彼女達の多くは、実はアノス貴族の令嬢達である。
 父親としては、もはや娘達の帰国は叶わぬものとはいえ、ムディールによってファールヴァルトが侵略されたときのことを考えると、ファールヴァルトを援助したいであろう。
 彼女達の大半は、ファールヴァルトの貴族達の妾や夫人、養女として迎えられている。
 そのファールヴァルトから援助依頼を受ければ、当然、遠慮無く騎士団を派遣できる。ファールヴァルトから見てみれば、騎士達や貴族達の令嬢をダシにして軍事援助を引き出せるのだから、損な話ではない。
 アノスとしても、ファールヴァルトから軍事援助を要請された事で、対外的な信頼をかなり回復できる。
 おそらく、それをも見越しての騎士団派遣要請なのだろう。
 もっとも、シオンは気が付いてはいなかったが、眞にその判断をさせたのはシオン自身である。
 それはともかくとして、ファールヴァルトからの要請を断る理由は無かった。
「我が国は、先日の非礼に対する誠意としてファールヴァルトへの軍事協力を行う。騎士団は本国防衛の為に二隊のみを残し、残る全軍をファールヴァルトへ派遣する。全員、出撃準備!」
 レファルドⅣ世の言葉に弾かれたように背筋を伸ばして、騎士達は一礼をする。
「我らアノス聖騎士の力、侵略者に見せてやりましょうぞ!」
 若い騎士隊長の声が響き、聖騎士たちが威勢良い声を上げて出撃準備の為に広間から退出していった。
 その頃、眞達は総司令部で対策を練っていた。
 アノスからは良い返事が返ってくるだろう。
 だが、それが、もし外れた場合も考えて、戦略を練る必要がある。
 クープレイのテストはほぼ完了しており、あとは実践での精度を高めていくだけだった。ドーラも、初期生産分は軌道に乗りつつある。
 とりあえず、十二機は今月中に確保できるだろう。
 いくら、各地で戦争の準備が始まったとはいえ、今日明日中に戦争が勃発するわけではない。
 ここが近代兵器を導入した現代の戦争と人力による前近代戦争の違いである。
 眞達の目から見れば、あまりにものんびりした展開だと思わざるを得なかった。
 そして、ファールヴァルト軍は魔法を多用した情報戦に長けているために、完全に敵の動きを把握可能なのだ。
 SSIVVAを装備可能な人材も、その時間である程度の数を揃えることが出来る。
 そもそも、戦争には準備が必要なのだ。
 それも補給を確保し、それを如何に効率良く、確実に展開するか、が必須なのだ。必要な物資は、食料、武器や防具、医薬品、居住用品等など、膨大な物資が必要になる。
 特に、食料が無ければ話にもならない。
 その上で、最初に緻密な戦略を立てる必要があるのだ。
 行き当たりばったりに戦線を拡張すれば、必ず負ける。
 第二次世界大戦で大日本帝国軍がそれをやって敗北したのは、そのセオリーの典型的な例である。
 そして、戦略を考えるにあたって、恐らくこの状況を生み出した張本人の意図を読む事も大切だ。
「さすがはルキアル、よく考えたものだよ」
 眞は、この状況を作り出したのはルキアルだと確信していた。
 ファンドリア軍を動かしたのも、恐らくはルキアルの意図だ。そして、オーファンを必ず動くように仕向けたのも彼だろう。
 ロマール商人をつかい、恐らくはリトラー王子と旧モラーナ貴族にプレッシャーをかけたのだ。
 そして、この状況を生み出した。
 逆にそうでもしなければ、ロマールの第二王子は地位を失う危険さえあったかもしれない。
 対ベルダイン戦で、ロマールは屈辱的な和平を結ばざるを得なかった。
 その為、ルキアルの立場は悪化したはずだ。
 同時に、新貴族が担いでいる第二王子の立場も・・・
 それを回復する為にも、ルキアルはベルダイン王国ともう一度戦う必要があったはずである。
 その時に、ファンドリアがオーファンと戦争をしているのと、そうでないのとでは根本的な戦略の違いが生まれる。
 ファンドリアと戦争をしている間は、少なくともオーファンは身動きが取れなくなる。
 ラムリアースはオーファンが動けない以上、独断で動くわけにはいかない、という状況も生まれる。
 唯一の問題点は、アレクラスト大陸唯一の空軍を擁するファールヴァルトだが、ムディールが侵攻した場合、そのような余裕は無くなる。
 アノスとはこの夏に一戦を交えたばかりである以上、ファールヴァルトはアノスに援助を求めにくい、と考えたのかもしれない。
 だからこそ、眞はアノスに援助を求めたのだ。
 今は極秘裏にアノス軍の展開時期を見定めている。
 それと、ミラルゴの騒乱も、どうもタイミングが怪しい。
 リザードマンをけしかけたのも、何らかの方法でウォータードラゴンを支配する方法をリザードマンに与えたのでは、という気もする。
 恐らくは、ムディール王は欲目にも駆られたのだろう。
 先進の技術と知識を持つファールヴァルトが、これ以上大国化をする前に征服してしまおうと考えたのかもしれない。
 ファールヴァルト軍は質が優れているので、攻撃力はあるが、数の少なさから防御に弱い。今ならばまだ手に負える、という考えが見えている。
 それを囁いたのも、ルキアルだろう。そして、ファールヴァルトの台頭を快く思っていなかったムディール貴族は、それに乗ったのだ。
 ファールヴァルトを征服して、その技術と知識を独占できたならば・・・
 もっとも、ルキアルはそれを易々とは許さなかっただろうが。
 結果として、ムディールはファールヴァルト侵攻の為に軍を動かし始めたという訳だ。
 眞はそれを推測したからこそ、アノスへの軍事協力要請を内密に、迅速に行ったのである。
 それらの事を述べ、眞は今後の戦略を打ち合わせることを提案した。
「それで、将軍は如何にお考えか?」
 同じく将軍の位にあるファーレンが尋ねてきた。
 それに対して、眞は簡潔に答える。
「まず、アノス軍が到着し次第、ムディール軍を撃破しましょう。戦力では向こうが上ですが、我々は空を一方的に利用できます。ですが、領土内に侵犯されてからでは不利になりますから、こちらから出向いたほうが得策かと思います」
「それでは、我が国から侵略を行ったことになる!」
「だが、ローラン卿。現実問題として守りながら戦うのは不利だ」
「しかし、我が国から攻め込めば、アノスも我々には協力し無くなるだろう」
「それに、ロドーリルの動きも気になる・・・」
    ・
    ・
    ・
 前線を守るだけの数、兵士を揃えきれないのが現在のファールヴァルト王国の弱点だった。
 この場合、『攻撃は最大の防御』という方法しか残されていない。
「我々は、まずゴーレム部隊を展開して、ムディール軍を食い止めます。そして、幻像騎士団と銀の剣騎士団を投入して、ムディール本国を攻めるのです。そうすれば、ムディール本国を攻め落とせなくとも、ファールヴァルトへ派遣されている部隊は本国へ引き返さざるを得ないはず」
「確かに・・・」
「そして、アノス軍に協力してもらい、ロドーリルを牽制するのです」
 移動には時間がかかるが、それでもファールヴァルト軍はマハトーヤ山脈を直接超えて移動できる。一週間もかからずに侵攻可能だろう。
 もし、王都への攻撃が行われたと知ったら、ムディール軍はファールヴァルトを攻めてなどいられないはずである。
 王城を攻めるには相当な攻城兵器を必要とするが、この世界の城は基本的に上空からの攻撃など想定していない。
 上空への防御など、概念としてさえもほとんど存在していないだろう。
 だからこそ、ファールヴァルト軍の最大の特徴を発揮できるのだ。
「アレを使う気か?」
 英二が声を潜めていった。
「ああ。千人規模で兵隊を運搬するものはアレしかないだろう」
「なんだ、アレだのこれだのと」
 ランダーが不思議そうに尋ねる。
「試作段階のものなのですが、兵士を長距離、短時間で運搬するための物を開発していたのです」
「なんだそれは?」
「空を飛ぶ船です」
「???」
 ランダーには全く意味がわからなかった。
 船とは普通、水に浮かぶものではないか。
 だが、眞は大真面目だった。
 眞は丸ごとの帆船に魔力を付与したのである。宮廷魔術師団の魔法使い、ならびに幻像騎士団の魔法騎士と傭兵隊の魔法使い全員を動員して、帆船に<重量軽減ディクリース・ウェイト>の魔法をかけたのだ。
 そして、その重量軽減の魔法を永続化する為の魔法をかけ、空に浮かぶ船を作り上げたのである。
 ちなみに揚力は、<飛行>の魔力を付与されている帆によって得られる。帆を張れば揚力を得られて空に浮上するが、帆を畳めばそのまま地上に降下する。
 これを使えば、大人数を短時間で運べるはずだった。
 もっとも、船長を雇い入れるのに苦労したのだ。
 わざわざ、オランまで出かけて、優秀な船長と船員を探し出してきたのである。最初は笑い飛ばされたものの、最終的に嵐で船を失ったばかりの船長を説得する事に成功した。
 船長が言うには、空を飛ぶ以外は殆ど海の船と変わらないそうである。
 波で揺れるわけではないのだが、風で揺れるので船酔いもするそうだ。だが、一応その揺れを少なくする為の工夫もしたので、何とか実践運用できそうだった。
 風任せの巡航しか出来ないのが難点だが、陸路を使わずに部隊規模で人員を移動できるという利点は大きい。
 飛行船を作ろうかとも思ったのだが、ヘリウムを集める手間を考えると飛航帆船のほうがまだマシだった。水素ガスを用いるのは論外である。
 火矢を射かけられただけで大炎上しかねないものを、実践運用する気は無かった。
 飛航帆船は魔力付与の知識さえあれば、人数を動員して比較的簡単に作る事ができるからだ。
 これを用いれば、空路を利用して人員も物資も搬送できる。
 眞はそれを期待していたのだ。
 もっとも、実際に導入するような状況など来て欲しくは無かったが。
「で、どうやって上空から兵士を降ろすのだ?」
 ファーレンが不安そうに質問をした。
 まさか飛び降りろ、というのではあるまいな?
「ご安心ください。飛び降りろ、などとは言いませんよ」
「では、どうするのだ?」
「小型の上陸艇を用意してあります。と言っても、あの空を飛ぶ絨緞に荷馬車の台を括り付けた物ですが」
「なるほど。確かにあれなら小回りが効くし、騎士達も操縦に慣れているな」
 ファールヴァルトは交易に、その空を飛ぶ絨緞を改造した飛空機を利用しているのだ。そして、その運用は主に騎士に任されている。
 あれの操縦ならファールヴァルトの騎士は手馴れたものだ。
 そして、現在存在している飛航帆船は“風の翼”号だが、その船は三本マストの大型帆船を基に改造している。
 かなりの人数を運べるはずだ。
 そして、風の翼号はそのデッキにドーラ四機、そして格納庫にクープレイ三機を格納できる。
 それらの新兵器を運用する為の母艦としても必須の装備であった。
 
 
 

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