~ 3 ~
その翌日、ランダーは一頭のグリフォンが王城の中庭に着陸するのを見て仰天した。
しかも、その背にはそのグリフォンを退治に出たはずの眞と同行したルエラが乗っているのだ。着陸したグリフォンは、そのままじっと伏せて身じろぎさえもしていない。 ひょい、と眞がグリフォンから飛び降りた。そしてルエラを魔獣の背から下ろす。 「・・・なるほど」 ランダーは合点がいった。あの時、眞の言った言葉の意味である。 眞は最初からグリフォンを倒そう、などとは考えていなかったのだ。あの若者の目的は最初から鷲頭の魔獣を捕らえる事だったのだろう。しかし、まさか本当に捕らえてくるとは・・・ ランダーは自分に出来るかどうか問いてみて、首を横に振っていた。 グリフォンの強さは恐るべきものがある。 人間をものともしない生命力、戦闘力に加えて空を自由に飛ぶ能力があるのだ。それを捕らえるなどおよそ人間には不可能では、とさえ思えてくる。 幾人かの兵士や騎士達が眞とグリフォンを遠巻きにして眺めているのを見て、ランダーは急いで部屋を出た。 「やったようだな!」 ランダーの声に眞が振り向く。そして満面の笑顔で答えた。 「はい!」 眞が少し自慢げに胸を張る。その笑顔は使命を成し遂げた者だけが持つ自信をたたえていた。そして優しげな笑みでグリフォンの頭を撫でる。 「それが例のグリフォンか」 「ええ。結構大変でしたよ」 「そうだろうな・・・とにかく、良くやった」 ランダーはぽん、と眞の肩を叩いて労をねぎらう。 「では、早速だが、陛下に報告に行こうか」 「判りました」 眞は、捕らえたグリフォンに、この場で待つ様に命じてランダーと共に王宮に向かった。そして、ルエラは、万が一にもグリフォンが暴れ出さないように、とその場に残る兵士達に見張りを頼み、眞を追いかけて走り出した。 王城の取次ぎや呼び出しなどのまどろっこしい宮廷儀礼も、今回だけは頭にこなかったものだ。 しかし、ようやく謁見の間に辿り着いたのは、城の中に入ってから半日も経った後だった。 その真紅の絨毯の上を歩く眞の姿は、以前よりも堂々としており、強力な魔獣をも捕らえた戦士としての風格さえ帯びていた。 謁見の間に並ぶ騎士達も心なしか興奮気味である。眞の戦士としての技量を改めて思い知った、といった顔をしている者も少なくなかったようだ。 そして、ファールヴァルト国王ウェイルズは、久々の気分の高まりを押さえるのに苦労していた。 その国王の目の前より十歩程離れた辺りに、眞は肩膝をついて畏まる。 ウェイルズは重々しく口を開いた。 「異世界より来たりし魔法戦士、緒方眞殿よ。此の度は良くぞ、この王国を騒がせた魔獣を捕らえた。その手並み、見事である」 「は。ありがたきお言葉に存じます」 眞は畏まったまま、短く答える。 「面を上げよ。汝はこの国の騒動の源を見事に捕らえたのだ。その武勲、騎士たる者に相応しい。その武勲を以ってこの国に仕えてもらいたい」 「その名誉、ありがたく受けさせていただきます」 「うむ。此の度のそなたの武勲により得た鷲頭の幻獣、そなたの騎馬と成すが良い。それとは別に軍馬と紋章を授ける。同時に爵位を授けよう。今後は男爵位を名乗るがよい」 「ありがたき幸せにございます」 眞の言葉に、ウェイルズは満足げに頷いた。 「王国騎士として、同時に国政にも参加してもらおう。財政、ならびに政策の任を与える」 「畏まりました」 「これから、この国を任せたぞ」 その言葉はウェイルズの本音だったのだろうか。この年老いた王は、自国の繁栄を異世界から来た少年に託そうと考えていた。 その眞の騎士叙勲を見ていたのは葉子とルエラだけではなかった。 「ひゅー、すげえ、あいつ本当に騎士になっちまった」 牧原が驚きの声をあげる。葉子の首にかけられた通話の護符を通して、クラスメート達は眞の騎士叙勲を見ていたのだ。 「悦子、凄いね・・・」 智子と里香が悦子に話し掛ける。 「本当・・・」 呆けたように悦子が返事をした。 確かに嬉しかった。 眞の実力が見とめられて騎士としての立場を得たのだから。だが、それは眞が今まで以上に忙しくなる事を意味している。その事は同時に二人でいられる時間も制限されてしまうのだ。 複雑な表情をしている悦子に、里香が優しく声をかける。 「悦子、大丈夫だよ」 「そうだよ。緒方君の事だから、それくらいは考えているからさ」 智子も悦子を励ましている。 嬉しかった。悦子は二人の友情と気配りがこの上なく嬉しく感じられていた。そう思うと悦子は護符に映る眞の姿をようやく落ち着いて見れるようになった。 眞の姿は立派だった。 堂々と騎士叙勲を受け、そして自信に満ちた笑顔で騎士達と挨拶を交わしていく。その姿は余りにも素晴らしく、どこかの異世界に行ってしまったかのように思えるほどだ。 しかし、何故か急に悦子は誇らしく思えていた。 騎士叙勲が終わってから、眞はずっと宴の主役だった。 どのくらい酒を飲んだのだろうか。もう覚えていない。 もう宴も終わって、柱の影などで幾人かの恋人同士達が愛を語り合っているようだ。 眞は夜風にあたりながらぼんやりと、取りとめも無い事を考えていた。 恐らく、明日から忙しくなるだろう。 ただ、向こう暫くはアレクラスト大陸のさまざまな知識や教養を得るために自由行動が認められている。言葉も覚える必要があるのだ。 騎士としての作法は、ランダーが直属の上司として様々な事を教えてくれる事になっている。そして、宰相のオルフォードから、この国の国土を見て、国力を豊かにするための案を練ってくれ、との内密の頼みを受けている。緊急の課題は食料だった。この国の耕作方針を根底から覆す必要があった。 まず、土地が痩せていることを前提にして、食料の供給体制を変えるのだ。 ある種の麦は、たとえ土地が痩せていても自分で肥料を作り出して土地を少しづつ豊かにしながら育つ事が出来るものがある。その そして、水の問題だ。 これは大規模な それ以上に、まず今年の作付けを考える必要があった。今年は絶望的に作付けが悪いらしい。その為、食料事情が急速に悪化しているのだ。 これらのアイデアは、長期的に見た場合は有効な手だ。だが、今は対処療法でもすぐに結果が出る方法を要求される。 やはり、交易により食料を輸入する以外に方法は無い。しかし、この国には食料と交換できる余分な富は無いのだ。 「宝石も無い。貴金属も無い、か」 一見、何も無い様に思える。それでも、幾つか眞にはアイデアがあった。 「何をお考えになっておられるのですか?」 鈴を鳴らしたような声が、そっと眞に話し掛けた。 眞が振りかえると、そこにはファールヴァルト王国の王女ユーフェミアが立っていた。 「ユーフェミア王女、どうなされたのですか?」 そっと尋ね返す。 「何をお考えになっていらっしゃるのかしら、と思ったのです」 「いかにしてこの国を豊かにしようかと考えていました」 眞の答えに、ユーフェミアは寂しげに微笑んだ。 「この国は、あまりにも貧しい国です。どうかお知恵をお貸しください」 「はい」 その眞の答えにユーフェミアは頷く。 「眞殿には、何か良い知恵は浮かびますでしょうか?」 「その前に、このような口調は自分には合いませんので、もっと普通に話して頂けませんか?」 眞の、自分のほうが身分は下なのだから、という言葉にユーフェミアは寂しげに首を横に振る。 「眞殿は騎士にして魔術師でもあり、賢者様でもあるのですから、敬意を払うのは当然です」 そう言って、ユーフェミアはくすり、と笑う。 「でも、眞殿がそう言うのならば、改めますわ」 と、口調を変えて眞に向き直った。 「それで、眞様。どの様な考えをしているのですか?」 眞もくすり、と笑い、答えた。 「まず、この国の食料事情を改める必要があります」 そして、先ほどの考えを打ち明けて行った。 「まあ・・・毒の草が薬になるのですか?」 「はい。確かに 「なるほど・・・それで得た銀貨を元に、その痩せた土地で育つ麦を作る、と。そして放牧を増やして家畜を増やし、堆肥を作る事で土地を肥えさせる・・・見事な知恵です!」 ユーフェミアは驚いていた。 確かに土地を豊かにする、家畜を増やす、ということはいつも会議の議題に上っている。しかし、その財源が問題なのだ。だが、この目の前の少年騎士は、あっさりと考えを出してしまった。 すぐにでも実行したほうが良いだろう。 「それでは眞。明日にでもその案を始めていただけますか?」 「判りました。全力を尽くします」 眞は急な展開に驚きながらも、その王女の依頼を引き受けていた。 翌日からは、まさに戦争だった。 ランダーの城に戻る前にマーファ神殿に立ち寄った。 ローマ神殿などのファンタジーの神殿をイメージしていた眞にとって、質素で飾り気の無いマーファ神殿はどこか日本の神社を思わせる雰囲気を感じるものだった。教義が「自然であれ」というマーファの教えは日本の神道に通じるものがあるのかもしれない。 そう思いながら、眞は神殿の前で作業をしている女性に声をかけた。 「御忙しいところ、失礼します」 そう、声をかけると女性信者は暖かい笑みを浮かべて眞に挨拶を返してくる。 「何かご用でしょうか?」 「はい。実は今、薬師を捜しているのですが、マーファ神殿の方ならどなたかご存知ではないか、と思いまして」 「さようでございますか・・・それでは、司祭様にご相談なさっては如何でしょうか?」 「ありがとうございます」 「では、此方へどうぞ」 その女性信者に従い、眞は神殿の奥へ進んでいった。神殿の中は、外見と同じく質素なものだった。ただ、その素朴さは好感が持てるものでもある。 「どうかなさいましたか?」 ふと立ち止まって柱に手を触れている眞に、女性が声をかけた。 「いえ・・・不思議ですね。石の柱のはずなのに、こんなに温かみを感じるなんて」 眞は素直に感想を口にする。その言葉に女性はにっこりと頷いた。 「そうですね・・・マーファ神は大地母神ですから、土や石にも温もりを与えてくださっているのでしょうね」 そう取りとめも付かない事を話しながら、この神殿の司祭の部屋に辿り着いた。案内してくれた女性信者がドアをノックして司祭に声をかける。 「司祭様、よろしいでしょうか。王宮から騎士様が御見えになっておられますが」 「御入りなさい」 そう返答があった。 「では、どうぞ」 眞は案内の信者に礼を言い、ドアを開いた。 「失礼いたします」 軽く頭を下げて、部屋に入る。そこには小柄な初老の女性がいた。 この女性が司祭なのだな、そう思った眞は自己紹介をした。 「初めてお目に掛かります。昨日付けで王国騎士となった緒方眞と申します」 「初めまして。この神殿を預かっているフォリナです」 そう言いながら、司祭は眞に予備の丸椅子を勧めた。眞が腰を下ろすと、フォリナも向かい合って腰をかける。 「それで、騎士様がこの神殿に何のご用でしょう?」 「はい。本日は一つ 眞は自分の考えを伝えて、返事を待った。 「そうですね・・・薬草の研究はこの神殿でも行っております。信者の中に何人か薬師で生活をしているものもおりますので、騎士様のお役の立てるでしょう。しかし、あの毒草が薬になるとはね・・・」 「ありがとうございます。自分も驚いているところですね。あの毒草が古代語を用いた魔法の薬の材料になろうとは考えもしませんでした」 その言葉にフォリナもにっこりと笑って頷く。 「あの毒の草も薬になる、そう判れば大地の恵として人の役に立てるでしょう。それはマーファの御心にかなうもの。神殿としても出来る限りの援助を惜しみません」 「本当にありがとうございます。必ず、そのお力添えに応えて見せましょう」 目の前の孫の様に若い騎士の言葉は、フォリナにとって好ましいものだった。 「それでは、早速その者達に声を掛けてみましょうか」 そう言いながら、司祭はドアを開いて人を呼ぶ。それから、ばたばたと人が行き来して、薬師の技術を持つ者が3人集められていた。 「それでは貴方方には、こちらの騎士殿に強力してあげて頂きたいの」 フォリナ司祭がそう言うと、ざわざわとどよめいた。無理も無い、とフォリナは思う。基本的にマーファ神殿は権力を否定する傾向にある。それに協力する、とは。 最近の王国は、飢饉の影響もあって民達は基本的に飢え続けている。だから、王国に反感を持っている国民がどんどん増えてきているのだ。 それを知っているフォリナは信者達ににっこりと笑いかけて説明する。 「こちらの騎士殿は、山の毒草を薬にする方法を見出したそうです」 その言葉に集まった信者達が驚く。 「それは本当ですか?」「何と!」 フォリナと眞はゆっくりとかいつまんで説明していく。古代語魔法であの毒草を処理することで薬の原材料になること。その原料を作りさえすれば薬師の手で調合できること。そして、出来た薬を輸出して食料などを買うこと、など。 これらのことを順序立てて説明していくと、最初は胡散くさげに見ていた者達も、徐々に納得し始めてきた。 特に、魔法の効果のある薬は比較的高価に売れるのだ。 だが、マーファの信者にしてみれば、それは弱者からお金を奪い取るようにも映るかもしれない。実際、そう言って反発するものもいた。それでも眞は魔法の薬を売るしかないのだ。 結局、フォリナの説得もあって薬師の内の1人だけ、協力を取り付ける事が出来た。 手伝いを含めて3人をランダーの館に連れて帰るったのだが、これからが本番だろう。 問題が無かったわけではないが。 (何でこの子は女の子ばっかり連れてくるのかしら・・・) 眞の連れてきた薬師を見て、葉子は思わず頭を抱えたくなった。 それもそのはず、眞の連れてきた薬師は、若い娘だったのだ。 「しょうがないよ。協力してもらえる薬師はこの人だけだっんだ」 しゃあしゃあと言う眞に葉子は思わず頭痛を感じてしまう。ふとルエラを見ると、彼女も何やら考え込んでいた。 危険な兆候だわ・・・ なぜか、葉子はそう感じてしまう。 とにもかくにも、眞の薬輸出計画は開始された。 眞達の作り出した魔法の薬は各国で大好評だった。 傷を癒す薬や病を癒す薬などは、魔法と同じような効果がありながら比較的安価だったため、瞬く間に売れてしまうほど売れている。他にも、精神を癒す薬は魔力が枯渇する、奇病に唯一効く薬であるために大国の魔術師ギルドなどが大金で購入してくれていた。 さらに、眞は若返りの薬や美人にする薬、体型を良くする薬なども作り出していた。これらは貴族などが莫大な金額で買い上げてくれるので、短期間で相当な収益をあげていた。 隣国のオランはその中でも上得意の一つだった。 これらの魔法の薬を買取り、そして食料や家畜、痩せた土地でも育つ植物や種籾などを大量に提供してくれたのだ。 僅か二月の間に、眞はグリフォンを駆り、西はオーファン、ラムリアース、ザインからオラン、エレミア、プリシス、アノス、ムディールなど、様々な国で商売を成功させていた。 眞は各国の商人達を雇い入れ、薬を売る傍らに各地の名産品を買いつけ、それを他国で売る巨大な販売網を構築していたのだ。その結果、莫大な富がファールヴァルトに 「まったく、信じられんな!」 宰相のオルフォードは国庫にさえ入りきれなくなった程の財宝を見て、驚きを隠せない表情で目録を確認していた。 恐らく、ファールヴァルト建国以来の富を集めても、これ程にはならないかも知れない。それに、食べ方どころか保存場所にさえ困るほどの大量の食料が溢れかえっていた。 まったく、あの若者はとんでもない。 オルフォードは驚きを通り越して、感動さえしていた。 国王を蝕んでいた死病は、とうの昔に魔法の薬で癒されている。国の財政はもう心配無い。軍事面ではロドーリルが心配なところだったが、それもオラン・ムディールの国王から同盟の打診があったので、まあ、大丈夫だろう。実力部隊としても眞は冒険者や傭兵達を大量に雇い入れていた。 国民達にも仕事を与える事で俸給を払い、それが飢饉による飢えを克服している。 眞はユーフェミア王女の依頼を見事に果たしたのだ。 既に眞一人では無く、王国にいる商人や騎士達が飛び回っているのだ。眞は特に、空を飛ぶ魔法の絨毯を十数枚も手に入れており、それを用いて交易空路を築き上げている。 魔法の絨毯に荷馬車を括り付けて大量に物を運んでも安定して飛行できるように改良してあるのだ。これにより陸路を使うよりも早く、大量に物資を搬送できる。それが更なる富を産んでいた。 その富をもたらした若者は今、新しく部下となった新米の騎士達や魔獣狩りで隊長を失った騎士達の再編成に走り回っている。 そして今は・・・ 「それで、この古代語『ヴァマナ』は基本的に相手を指定する場合の条件節に用いる。実際にはこう用いるといい」 眞はおよそ二十名の騎士達を前に、魔法の講義をしていた。これらの若者達を魔術も使える騎士、すなわち『魔法騎士』にするのである。 大量に雇い入れた冒険者や若い騎士、そして騎士見習達の中から素質のあるものを選んで、徹底的に訓練しているのだ。そして、その成果は徐々に上がり始めていた。 一番の問題は、如何にして古代語魔法を習得させるか、であった。普通に学習させたのでは、少なくとも三年は掛かってしまう。それ程の時間の余裕は何処にも無かった。 その為、眞が『塔』で発見した魔術書を用いて、即興で学ばせる事になったのだ。一度身に付けた古代語魔法を理解させ、なおかつ成長させるためにも実地訓練が積み重ねられている。 本来ならば理解してから実践する古代語魔法を、身に付けさせてから理解させるという本末転倒なやり方ではあったが、その魔術の講義を充実させる事で何とか部下達に古代語魔法の理解を深めさせていた。 その成果もあり、二十名いる魔法騎士達の全員が正魔術師以上の実力で古代語魔法を仕えるようになっている。その内の数人は導師級の魔力を操り、近衛騎士級の剣技さえも身に付けているのだ。その上、幾人かは精霊魔法も使いこなす精霊使いでもあった。 眞自身、かなりの魔術を使いこなせるようになっている。既に< 魔法と剣は組み合わせる事でその力を十倍にも二十倍にもできるのだ。眞の鍛えている魔法騎士隊は、人数こそ二十名程度だが、実際の戦力としては千人の戦力にさえ匹敵していた。 ファールヴァルト王国が千人以上も冒険者や傭兵を雇い入れたのには理由がある。王国の各地で古代王国の遺跡が発見されたのだ。その中でも、王国の東、『悪意の森』で発見された地下迷宮は途方も無い規模のものだった。実際、眞自身が相当な深さまで探索してみたのだが、果てが無いほどに広がっているのだ。 その為、通常の遺跡ではないと判断して王国として発掘作業を行う事にした。近年、これ程巨大な古代王国の遺跡が発見されたのは稀であり、冒険者達が集まらない理由は無かった。 そこで、眞は彼らを国が雇う事とし、発見された魔法の品は優先的に買い取るようにしたのだ。そして、冒険者達の中から望むものを仕官させて、国力の増強を図る事にもなった。当然の事ながら、自分の部下達も部隊編成して迷宮に送り込み、訓練では得られない経験を積ませている。 それは着実に成果を上げ、眞の期待通りの戦力に仕上がってきている。一人、ラムリアースの元魔法騎士がいたのが助かった。彼は騎士としても中々の腕で、騎士隊長を任せてある。彼の知る魔法戦闘の知識や戦略、戦術は貴重だった。 魔法騎士隊の騎士達は、眞同様に有翼の魔獣であるグリフォンやペガサス、ヒポグリフなどを捕らえて乗騎している。もちろん、眞を始めとして魔獣狩りの際に捕らえて、騎馬として訓練したのだ。 それは空軍力を持つためだ。 空からの戦闘は文字通り圧倒的である。そして、このフォーセリアには有翼の魔獣や幻獣が沢山いる。それを使わない手は無い。空中を駆け抜けて魔法を使いこなす魔法騎士隊は、現時点でさえ大戦力の一つに数えられていた。 他にも、魔法騎士隊には向かないが有力な魔術師達は、ルエラとファールヴァルト王国宮廷魔術師であるマークスが率いる宮廷魔術師団に入団させていた。ルエラも眞同様、<瞬間移動>の呪文を唱えられるほどの高位の魔術師である。そしてマークスは魔法の技量こそ、その二人に劣るが豊かな見識と経験を誇る宮廷魔術師である。 その三人を中心にして、合計13名の魔術師達がファールヴァルト王国宮廷魔術師団に名を連ねていた。全員が導師級以上の使い手であり、その魔法戦闘能力は恐るべきものがある。 これほどの戦闘集団を持つファールヴァルトは、近隣の大国とさえ遜色の無い軍事力を持ち始めていた。 その理由は、隣接する軍事大国ロドーリルの動向が怪しくなって来た為である。 |